エピソード15

居室前の小さなコンサート

「父らしい最期を、
父の大好きな場所で迎えてほしい」

その願いを、
アルファリビングの皆さんは
本当に丁寧に叶えてくださいました。

父がこの施設での生活を始めたのは、
5年前の夏。

とても穏やかで、
おだやかな笑顔をたやさず、
スタッフの方々とも
すぐに打ち解けていたのを思い出します。

サイパンで過ごしていた父は、
フルーツと甘いものが大好きでした。

私が差し入れる果物やお菓子を、
嬉しそうに頬張る姿は、
今でも忘れられません。

毎週やってくる
パンの移動販売の日を、
父は心待ちにしていました。

「今日はあんパンにしようかな」

スタッフの方と一緒に1階まで降りて、
目を輝かせて選ぶ父の姿が
懐かしいです。

私はピアノを弾いています。

父のために
小さな演奏会を開いていたのですが、
それを何より楽しみにしてくれていました。

演奏を終えると、
いつも誰よりも大きな拍手をくれました。

そのやさしいまなざしに、
娘としてどれほど励まされたか
わかりません。

入居から月日が経ち、
96歳を迎えた頃。

父の体力や認知機能が
少しずつ低下し、
食事の介助も必要になってきました。

本来であれば、
予定していた私のコンサートに、
父が参加するはずでした。

でも、体調は思わしくなく、
外出は難しい状況に。

それでも──

「どうにか、施設で演奏できないか」

そう考えてくださった
スタッフの皆さんが、
父の居室前での生演奏会を
提案してくださいました。

その日、父は
ほとんど体を動かすことも
声を出すことも難しい状態でした。

けれど、演奏が始まると、
父の手が少し動き、
声が漏れ、
目に力が戻ったように見えました。

「きっと聴こえてる」

そう確信できる、
かけがえのない時間でした。

数日後。

「最期の時が近づいているかもしれない」と、
スタッフの方から
丁寧に説明を受けました。

私は、
父が好きだったアクセサリーと、
お気に入りの洋服を選びました。

そしてその日。

父は、
スタッフの皆さんに見守られながら、
静かに旅立ちました。

「最後まで、ここで過ごせて本当によかった」

それが、
私たち家族の正直な気持ちです。

父と過ごしたこの施設での時間は、
ただの“介護”ではありませんでした。

父の「好き」を
大切にしてくれる日々でした。

ピアノと、フルーツと、パンの香りと。

あの日の笑顔とともに、
父は母のもとへ
旅立っていきました。

アルファリビングの皆さんへ。

父の最期を、
こんなにも温かく支えてくださって、
本当にありがとうございました。

このエピソードに立ち会った人
アルファリビング鹿児島上荒田

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