お役立ちコラム

高齢者のちょっとした変化が、大きな病気につながる場合があります。普段なら気にも留めないような「咳」も、その1つです。咳が出始めて何日も止まらないのであれば、「咳喘息」を疑う必要があります。

咳喘息は、放っておくと悪化することもあるため注意が必要です。ここでは高齢者が咳喘息を患ったときに備えて、いわゆるの喘息との違いや原因、症状、治療法と気になる疑問点を解説します。

高齢者の止まらない咳は咳喘息かも?

季節の変わり目には、気候の変化に追いつけず体調を崩してしまうことがあります。秋から冬にかけては空気が乾燥し、ウイルスや細菌が活発になる季節です。風邪を引きやすく、咳に悩まされる人も増えます。

何日も止まらない咳に悩まされているなら、それは咳喘息なのかもしれません。咳は医学上、続く期間が3週間未満であれば急性、8週間以上になると慢性に分類されます。急性の咳のほとんどは、ウイルスや細菌による風邪が原因です。一方の慢性の咳は、より深刻な疾患の疑いがあります。

長期間続く咳は、ただ「高齢者は風邪でも治るのに時間がかかる」などと軽視できない、しっかりと対処する必要のある症状です。

そもそも喘息とは?

喘息は、呼吸するとき空気が通る気道に発生する炎症が原因で起こる疾患です。咳や痰、息苦しさ、ゼーゼーという喘鳴、息苦しさなどの症状が現れます。発作的に症状が現れることが多く、夜から早朝にかけて、また季節の変わり目に起こりやすいとされています。

比較的軽症であれば、発作も軽度で短時間、夜間での発生も月2回程度です。重症になると、毎日のように日常生活が制限されるほどの発作に襲われ、夜間も頻繁に発生することがあります。喘息には、軽症の段階での早い対処が必要です。

喘息の種類

喘息になると、気管支がさまざまな刺激(冷たい空気、唐辛子などの辛さ、気圧の変化、ホコリなど空気中の微小な異物など)に対して敏感になります。反応によって気管支が狭くなり、空気が通りづらくなると発生するのが発作です。

喘息は、状態によって気管支喘息と咳喘息に分けられます。ここでは、これらがどのように分類されているかを見てみましょう。

気管支喘息

気管支喘息は、ウイルスや細菌、アレルゲンといったさまざまな刺激によって発生する喘息症状の総称です。呼吸の際に「ゼイゼイ、ヒューヒュー」という音が出たり、呼吸ができなくなったりするなどの一般的な喘息のイメージに近いのは気管支喘息でしょう。

喘息は、気管支だけでなく他の器官の病気と合併しやすいといわれています。鼻はアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎、耳では好酸球性中耳炎、肺にまで及ぶことがあるアレルギー性気管支肺アスペルギルス症などがあります。喘息は、アレルギー体質の方に多いことも特徴です。

咳喘息

咳喘息は、喘鳴・息苦しさ・発作はなく、乾いた咳が長期間続きます。感染症ではないため、人にうつすようなことはありません。

気管支喘息にかかったことがなかったり、胸のレントゲン検査に異常がなかったりするため、見過ごされることも多いようです。しかし「咳は出るが風邪をひいてはいない」「アレルギーを起こす物質に反応して咳が出る」といった一定の項目がそろうと、咳喘息と診断されます。

咳喘息の原因

咳喘息は、炎症を引き起こす白血球の1つ「好酸球」が気道に集まることで引き起こされます。

炎症の起こるきっかけは、風邪を引いたり、外的刺激(天候や気候の変化、ホコリやダニ、黄砂、タバコの煙、花粉、ニオイ、過労、ストレスなど)を受けたりなどです。どれに反応しやすいかには、個人差があります。日頃から注意して、原因をできるだけ避けることが大切です。

咳喘息の症状

咳喘息かどうかは、次のような症状の有無で判断します。

  • 長期間(2週間以上)、咳が続いている
  • 特定の季節や季節の変わり目に起こる
  • 喘鳴がない
  • 夜、咳がひどいと眠れないことがある
  • 空気の変化(エアコンの効いた部屋と屋外など)やタバコの煙、飲酒で咳が出る
  • 風邪を引いたり花粉症の時季に起こる

咳喘息では喘鳴がなく、息苦しさを伴う発作がありません。そのため、一時的な咳と間違いやすいという特徴があります。放置すると気管支喘息におよんでしまう可能性が高いため、「あれ?」と思ったら、できるだけ早く受診しましょう。

咳喘息の診断

咳喘息の診断は、問診と血液検査により可能です。他の病気の可能性を確認するため、胸部レントゲン検査や呼吸機能検査を用いる場合もあります。

ここでは咳喘息の診断を、内容ごとに詳しくみていきましょう。

問診

問診では、症状などについて、本人やご家族に次のような項目について詳しい聞き取りが行われます。

  • 症状:喘鳴の有無や息苦しさ、いつ頃からか、どのくらいの頻度か、どのくらいひどいか、どのようなときに起こるか
  • 既往歴:子どもの頃に喘息を患ったか、現在他に患っている病気があるか
  • 家族歴:両親や兄妹といった家族にアレルギーを持っている人がいるか
  • 生活環境:自分や家族が喫煙しているか、ペットを飼っているか

とくに認知症がある場合、的確に答えられないこともあるかもしれません。介護サービスのスタッフなどにも話を聞き、メモなどにまとめておくとよいでしょう。

血液検査

血液検査では、次のような項目からアレルギー体質があるかどうかを調べます。

  • 好酸球数:アレルギーがある場合に高く、通常は4%以上または1立方ミリメートルあたり300個以上でアレルギー体質と判断される
  • 総lgE値:アレルギーのなりやすさを示す値で、1ミリリットルあたり200IU以上でなりやすいと判断される
  • 抗原特異的lgE抗体:アレルギーの原因を特定する

アレルギーの原因が特定できれば、それらを避けることで咳喘息が悪化しないようにできます。

胸部レントゲン検査

胸部レントゲン検査では、異常な所見がないかを確認します。胸部レントゲン検査で異常が認められれば、喘息以外の疾患が原因です。異常が見られなければ、喘息という診断の根拠になります。

なかには、「以前と同じ咳だから同じ薬を処方して欲しい」「放射線被曝したくないのでレントゲン検査はしたくない」という方もいるようです。喘息以外の異常が見られないことを証明する検査は、異常があることを証明する検査と同様に重要です。適切な治療を受けるためにも、医師の指示に従うことをオススメします。

呼吸機能検査

呼吸機能検査で使うスパイロメータは、次のような検査の結果から気道がどのくらい狭くなっているかを数値化し、グラフで表す検査装置です。

  • 努力性肺活量:精一杯息を吸って一気に吐き出した時の空気量
  • 1秒量:最初の1秒間に吐き出した空気量
  • 1秒率:努力性肺活量に対する1秒量の割合で、70%以下だと喘息が疑われる

検査結果を表すフローボリューム曲線は、健康な方が丸くふくらみのある山を描くのに対して、喘息を患う方は下に凹んだ曲線を描くとされます。検査により、客観的な診断が可能です。

咳喘息の治療方法

咳喘息の主な原因は、好酸球が集まってしまうことによる炎症です。そのため市販の咳止めや総合感冒薬、抗生物質を服用しても改善効果は得られません。治療法として有効なのは、ステロイド吸入や気管支拡張薬です。それぞれ吸入薬や貼り薬など、異なるタイプがあります。

ここでは、ステロイドと気管支拡張剤で期待できる効果と、吸入薬と貼り薬のそれぞれのメリットについて確認しましょう。

ステロイド

咳喘息の治療によく使われるのは、吸入ステロイドでしょう。ステロイドは、もともと体内の副腎で作られているホルモンの作用を応用した薬です。一方で効果が高い分、「副作用がある」というイメージが強いかもしれません。

咳喘息の治療に使う吸入ステロイドは、量が飲み薬の100分の1程度であり、長期間吸入しても安全であると確認されています。そのため小さな子どもや妊娠・授乳中の方、高齢者でも安全に利用可能です。

吸入ステロイドは、効果を実感するまで1週間程度かかります。また、気道の収縮は抑えられないという課題もあります。そのため、咳喘息の治療として最初に使うのではなく、安定してきた状態を維持するために使うことが多いようです。

気管支拡張剤

咳喘息で気道が狭くなった状態を改善するには、気管支を広げる気管支拡張薬が有効です。

気管支拡張剤は、吸入薬・貼り薬・内服薬の3種類に分けられます。吸入薬には「効果を実感するまでの時間が短い」、貼り薬には「高齢者などうまく吸入できない方にも使える」などのメリットがあるため、医師と相談して使い分けましょう。

気管支拡張剤を使うと咳が出にくくなり、「よくなった」と感じがちです。実は、本当の原因である気道の炎症には効果がないとされています。根本的な改善にならない可能性があるため、他の治療と合わせて使う必要があるかもしれません。

高齢者と咳喘息に関するよくある質問

咳喘息の原因や治療が分かったとしても、家族はやはり心配なものです。適切に医師の治療を受けても、治癒にはある程度の時間がかかります。完治するのかどうか、治療法が合わないときはどうすればいいかなど、医師に尋ねたいことはいくつもあるでしょう。

ここでは高齢者が咳喘息を患ったときによくある質問を4つ挙げ、それぞれを解説していきます。

高齢者の咳喘息は治る?

咳喘息に罹患した方のなかには、自然に治り、咳がおさまる方もいるようです。その一方で、約30%程度の方は気管支喘息に移行するといわれています。もちろん完治するのがベストですが、大切なのは咳喘息の原因を特定し、咳などの症状を緩和することです。それができれば、気管支喘息への移行を予防できるかもしれません。

治療にはどのくらい時間がかかる?

咳喘息の症状の程度は、さまざまです。治療にかかる時間も異なるため、完治するには時間がかかることもあります。

治療を開始すれば、咳はすぐに改善することが多いようです。早いと1回目の吸入直後から数日以内に効果を実感でき、その後2〜4週間治療を続ければ完治したと見えるくらいまで改善します。

だからといってそこで治療をやめてしまうと、咳喘息が再発してしまうこともあるため注意が必要です。また改善したように見えても、風邪を引いたり季節の変わり目や過労でまた咳が出始めたりすると、再発することもあり得ます。

咳が改善してもすぐ治療をやめるのではなく、まずは医師に相談しましょう。咳喘息の原因によって、季節が変われば治療を中断するという方法もあります。

高齢者の咳喘息は長生きできない?

咳喘息の症状は、喘息のなかでは比較的軽いといえます。もし気管支喘息に移行してしまうと、咳が止まらないばかりかうまく呼吸ができなくなる可能性もあります。喘息はもともと、鼻や耳など別の器官の合併症を引き起こす恐れのある症状です。咳だけでなく、辛い他の症状元もなってしまうかもしれません。

そのような辛い状態にならないためには、やはり医師による早期の診断と治療が必要です。まだ「咳くらい」であるうちにしっかりと対処して、快適なシニアライフを送りましょう。

吸入できない時はどうする?

咳喘息の治療には、主に吸入薬が使われます。そのとき重要なのは、正しい吸入方法で治療することです。高齢になれば視力や握力が低下し、指先や手を使った細かい作業が難しくなります。また認知症や意欲の減退は、操作手順の理解そのものを難しくします。そのため、効果的な治療には、より細かなサポートが必要といえるでしょう。

うまく吸入できないときは、医師や看護師、薬剤師などに正しく吸入できるまで指導してもらうという方法があります。場合によってはスペーサーや補助器具、ネブライザーを使うといった別の方法も効果的です。

どうしてもうまくいかない場合は、貼り薬や飲み薬に変えてもらうこともできます。家族や周りの介護者にも協力してもらい、できるだけ適切な治療ができるよう努めましょう。

ヒューヒューした呼吸をしていたらどうすればよい?

呼吸のとき「ヒューヒュー」や「ゼイゼイ」といった喘鳴がみられるようなら、咳喘息はすでに気管支喘息に移行している可能性があります。咳喘息であれば、喘鳴は見られません。気管支喘息は、放っておくと命にも関わる危険な症状です。すぐに医師の診察を受け、指示を仰ぎましょう。

高齢者の咳喘息は放置せずに治療しよう

咳は、続いていることに気づかず見逃されがちな症状です。あまり長い間続いているようであれば、咳喘息を患っている可能性もあるでしょう。

咳喘息は、約30%が気管支喘息に移行するといわれる症状です。「ただの咳だから」と軽視し放置していると、さらに咳がひどくなるかもしれません。発作で呼吸困難に陥ることもあり、場合によっては命に関わります。治癒・軽快には、医師の診断と適切な治療、環境の整備が必要です。改善までに時間がかかることもあるため、状況の変化に合わせて治療やサポートを変える必要もあります。

高齢者は、運動機能や認知機能の低下によって吸入や服薬といった治療がうまくできないこともあるため、注意が必要です。治療をより効果的なものにし、少しでも改善するよう根気よく取り組みましょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長