お役立ちコラム

高齢になれば体のさまざまな機能が低下し、ときには日常生活を難しくしてしまうことがあります。生きていれば当たり前の「食べる」こともその1つです。食べ物を咀嚼する、食べ物を起動ではなく食道を通じて飲み込むといった機能が低下しても、必要な栄養を摂取しようという処置が胃ろうです。

この記事は、胃ろうのメリットやデメリット、かかる費用、在宅介護と介護施設選びで注意しておきたい点について解説します。

胃ろう(PEG)とは?

胃ろうとは、胃に小さな穴をあけて管(カテーテル)を通し、口からではなく栄養分を直接胃に届けて摂取する経管栄養法の1つです。これだけを聞くと、普段の私たちの「食事」のイメージとはかけ離れているため、なかなか受け入れられないかもしれません。

しかし、胃ろうの方が安全、胃ろうでなければ生きられないという方もいます。ここではまず胃ろうという処置そのものについて見てみましょう。

胃ろうの処置方法

胃ろうの手術はPEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy:経皮内視鏡的胃瘻造設術)と呼ばれ、内視鏡を使います。手術と聞くと家族は心配になりますが、比較的リスクの低い手術とされ、スムーズに進めば30分程度で終わる手術です。

術後は入院が必要ですが、経過が良好であれば1~2週間ほどで元の生活に戻ることができます。

胃ろうの対象者は「口からの栄養摂取が難しい人」

胃ろうの対象となる方に共通する特徴は「口からの栄養摂取が難しい」ということです。口からの摂取には、誤って気道に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」のリスクがつきまといます。誤嚥は、死亡するリスクが極めて高い誤嚥性肺炎の原因です。

誤嚥は、重度の認知症によっても引き起こされます。とはいえ必要な栄養は摂取しなくてはなりません。誤嚥が怖くなって食事量や水分摂取がへると、栄養不良や脱水症状を起こす可能性もあります。

病気や高齢によって「口から食べる」ことが難しくなってしまった人にとって胃ろうは、まさに生きるための手段となる場合があるのです。

胃ろうカテーテルの種類

「胃に穴をあけて管を通すだけ」とはいえ、胃ろうのしくみは複雑です。お腹から胃まで通したカテーテルは、お腹と胃の両方で固定されます。固定するパーツは体外部が「ボタン型」または「チューブ型」、胃内部が「バルーン型」または「バンパー型」と呼ばれます。

体外部

  • ボタン型:お腹からチューブが出っ張っていないため、目立たず、逆流しにくい。自己抜去のリスクも低い
  • チューブ型:チューブが出ているため、栄養摂取のとき接続しやすい

胃内部

  • バルーン型:胃の内部でバルーンが膨らんでチューブを固定する。痛みが少なく、交換しやすい。1~2カ月に一度交換が必要
  • バンパー型:胃壁にしっかり固定するため、抜けにくい。6カ月程度に1回の交換が必要

胃ろうカテーテルは、体外部と胃内部のパーツの組み合わせで「バルーンボタン型」「バルーンチューブ型」「バンパーボタン型」「バンパーチューブ型」の4種類に分かれます。

胃ろうにかかる費用は?保険は適用される?

胃ろうの造設から定期的な交換等の管理費用まで、保険が適用されます。

1割負担の方であれば、約1万円の手術費用が想定されます。プラスして、関連する治療費や約1週間分のベッド代や食事代などがかかる見込みです。

医療費の自己負担には、限度額があります。入院期間が1週間を超えても、費用がかさみ続けることはありません。

胃ろうの交換にかかる費用は、大きくカテーテルに用いたのがバンパー型なのかバルーン型なのかによって変わります。バンパー型は1回が2万円前後、約6カ月ごとの交換です。バルーン型は1回が約1万円ですが1〜2カ月ごとの交換になります。半年ごとの費用で比較すると、バルーン型はバンパー型より高いです。

また胃ろうから注入される栄養剤は、医薬品扱いであれば保険が適用されます。1カ月あたり3万円としても1割負担であれば3,000円、3割負担でも9,000円です。

実際の費用は、胃ろうを手がける医療機関に確認しましょう。

他の栄養補給方法ではなく胃ろうを選ぶ理由

胃ろうには、欠点や問題点がまったくないというわけではありません。しかし、高齢者にとって多くのメリットもあります。

ここではそのうち代表的な3つについて解説します。

患者自身にかかる負担や不快感が少ない

どんなに飲み込む力が弱まって誤嚥の危険があっても、食事をしなければ生命に危険が及びます。「何か食べなければ」と思っても誤嚥が怖くて食べられないのは、本人にとって大きな精神的負担でしょう。

胃ろうの手術は内視鏡を使うため、比較的短時間で終わります。手術はかかる時間が短いほど体への負担は少なく回復も早いため、術後に「動けない」「ベッドから離れられない」といった制限もありません。手術後のガマンしなくてはならない不快感も少ないといえます。

造設後、胃ろうカテーテルは洋服に隠れるほどしかありません。運動やリハビリがしやすいこと、カテーテルを保護しなくても入浴できることもメリットです。

家族や看護師・介護士側にとっても負担が少ない

本人にとってのメリットの多くは、家族や看護師、介護士にとっても「負担が少なくなる」というメリットでもあります。

造設前は1日3回の食事を解除しなくてはなりませんが、胃ろうなら1日2回胃ろうカテーテルを通して栄養を摂取してもらうだけです。本人が病院に入院していれば看護師が、介護施設に入居していれば介護士が、同じように負担軽減というメリットを得られます。

特に在宅介護の場合は、介護の負担軽減は大きな課題です。胃ろうを造設することで、介護者の負担を軽減し、穏やかな介護生活が実現するでしょう。

洋服で隠すことができる

歩くことが難しく、言葉もうまく話せずに耳が遠くても、日常生活で人と会う機会はあります。入院していて、会うのが医療関係者だけだとしても、人目は気になるものです。

胃ろうは目立たないため、洋服を着ればきれいに隠すことができます。外見の違和感がほとんどなく、周りの目を気にすることもありません。

胃ろう治療のデメリットとケアのポイント

胃ろうにはさまざまなメリットがありますが、デメリットにもしっかり対処することが重要です。デメリットから、胃ろうの注意点が見えてきます。ここでは胃ろうのデメリットからわかる、ケアのポイントについて考えてみましょう。

医師によるカテーテル交換を定期的に行う必要がある

胃ろうカテーテルは、定期的な交換が必要です。体の外と中をつなぎ、24時間装着するため、カテーテルやその周りの皮膚は、常に清潔にしましょう。

また、カテーテルを交換するのは、医師です。交換するには本人に病院まで付き添う必要があり、その都度費用がかかるのもデメリットでしょう。その頻度が1カ月から半年に一度であっても、付き添う人は身体的にも精神的にも大変です。

誤嚥(ごえん)予防のための口腔ケアが欠かせない

胃ろうは誤嚥の可能性をかなり下げることができる処置です。しかし誤嚥の可能性があるのは食べ物だけではありません。中には胃ろうカテーテルから注入された栄養剤が逆流して誤嚥する場合もあります。

誤嚥を防ぐには、姿勢を整えてから栄養剤を注入することが大切です。また、徹底した口腔ケアも欠かせません。

胃ろうの状態から元の生活に戻ることはできるか?

そもそも胃ろうは、通常の食事による栄養摂取が難しくなった際、健康状態が回復するまでの間必要な栄養を補給するための処置です。状態が回復すれば、通常の食事に戻ることができます。胃ろうでできた穴は、処置によってきれいにふさがります。

誤嚥しやすくなった高齢者を例に、考えてみましょう。栄養摂取をすべて胃ろうに切り替えるのではなく、口からの食事を基本としながら不足した栄養を胃ろうから補完するという活用法もあります。口からの食事でリハビリをしながら、胃ろうからバランスのよい栄養摂取をすることも可能です。

延命治療の一種だといわれることも……高齢者の尊厳について

胃ろうの対象となるのは、さまざまな原因により、口から食事をとることが難しくなった方々です。高齢者でいえば、嚥下機能や咀嚼機能の低下、誤嚥の可能性の高い重度の認知症などが考えられます。ここで注目したいのは「寝たきり」「要介護度の高い」方々に対して延命治療として利用される可能性です。

判断力や理解力が低下した高齢者を延命させる胃ろうは、本人の尊厳を傷つける行為ではないかと是非が問われる場合もあります。しかし胃ろうを造設した後、回復した例もあることから単なる延命治療とは言い切れません。

寝たきりや重度の認知症を患った高齢者の在宅介護は、家族にとって大きな負担です。胃ろうは、本人と家族がメリットとデメリットをしっかり理解した上で決断する、大きなターニングポイントだといえるでしょう。

自宅における胃ろうの手順

胃ろうの処置をしても、自宅で問題なく生活できます。問題は、胃ろうカテーテルからの栄養剤の注入をどうするかです。栄養剤を注入できる人には、看護師や研修を受けた介護士のほかに、家族が含まれます。慣れないうちは戸惑うこともあるでしょうが、手順を守ればさほど難しいことではありません。大まかな手順は、次の通りです。

  1. 手を洗い手袋をつける
  2. 栄養剤が常温であることを確認する
  3. 栄養剤をバッグに注入し密封する
  4. クレンメを開き、チューブの先端まで栄養剤を入れる
  5. 患者の上体を起こす
  6. チューブとカテーテルを接続し、決められた速さで滴下する
  7. 終わったらチューブとカテーテルを外す
  8. カテーテルを洗浄する

液状もしくは半固形状の栄養剤は、ゆっくりと時間をかけて胃の中に入っていきます。

自宅で胃ろうの方を介護する際の注意点

胃ろうで栄養剤を摂取するときは、逆流に注意しましょう。30分から1時間程度は、上体を起こしておきます。90度に起こすのが理想ですが、寝たきりなどで難しい場合は30度くらいで構いません。姿勢が崩れてしまわないよう、しっかり見守ります。

腰痛などによって長時間同じ姿勢をとれない場合は、大小のクッションを活用するなどして、できるだけ苦痛のない姿勢に整えることが大切です。

また口の中が乾きがちなので、細菌が繁殖しないよう定期的に口腔ケアすることも忘れてはいけません。栄養剤注入後など、上体を起こした状態であればケアしやすいでしょう。

自宅で胃ろうを行う際のトラブルと対処法

体に穴をあけてカテーテルを挿入する胃ろうでは、拒否反応として皮膚が赤く変色したり、腫れあがって膿が出たり、粘膜が赤く盛り上がったりすることもあります。

そのため介護にあたる家族は、普段から胃ろうカテーテルと皮膚の摩擦を極力避けることが大切です。症状が現れたら必要に応じて医師に相談し、指示に従いましょう。

注入する栄養剤や関連器具の管理も重要です。栄養剤は高カロリーであるため、清潔な場所に保管し、雑菌の繁殖を防ぐ必要があります。器具は使用のたびに洗浄・乾燥し、保管にはほこりのない清潔な場所を選びましょう。

胃ろうの方の介護施設選びで注意すべき3つのポイント

以前は、胃ろうへの対応が看護師のみとされていたため、限られた介護施設にしか入所できませんでした。2012年に介護保険法が改正され、定められた研修を受けた介護福祉士も対応できるようになりました。以降、胃ろうの高齢者が入居できる施設は、増えています。

ここでは胃ろうの高齢者が入居できる介護施設をどう選ぶか、3つの注意点から考えてみましょう。

対応できる職員が24時間常駐している施設か

胃ろうの高齢者には、常に状態変化のチェックが必要です。胃ろうの周囲の皮膚が腫れたり、痰がたまったりという変化に対して、昼夜を問わず注意する必要があります。

胃ろう(経管栄養)と痰の吸引は、看護師か研修を受けた介護福祉士しか対応できません。対応できるスタッフがいないときにトラブルが起きれば、命にかかわる恐れもあります。

胃ろうの方が入所を検討する際には、対応できる職員の24時間の常駐は必須の条件です。

口腔ケアをしっかりしてくれる施設か

食事の機会が減ると、口腔内を清潔に保つ唾液の分泌量も減るため、細菌が繁殖しやすくなります。少ないとはいえ唾液が逆流すれば、誤嚥につながりかねません。誤嚥した唾液に雑菌が多く含まれていたら、命の危険のある誤嚥性肺炎になってしまう可能性もあります。

口から食事をとらないからこそ、胃ろうには口腔ケアが欠かせません。介護施設では介護するスタッフが、口腔ケアをしっかりしてくれる必要があります。

医師や看護師と連携して最適な栄養剤を選択してくれる施設か

胃ろうで使われる栄養剤には、種類があります。1つは未消化のたんぱく質が含まれ消化する必要のある半消化態栄養剤で、もう1つは消化する必要のない消化態栄養剤です。また形態も、水に溶かす粉末やそのまま使う液状のもの、逆流防止に効果のあるゼリー状のものがあります。

施設での生活が長くなり、状態が変われば、栄養剤変更の検討も必要です。医師・看護師・介護士が連携し、適した栄養剤を選んでくれるかどうかも重要なポイントです。

あなぶきの介護には、胃ろうの対応が可能な施設が複数あります。ぜひ一度、お問い合わせください。

あなぶきの介護

参考:厚生労働省|平成23年介護保険法改正について

胃ろうは意思疎通が難しい段階の高齢者に施すケースが多い

胃ろうは、口からの食事や栄養の摂取が難しいときに選択できる経管栄養法の1つです。高齢にとってより安全な栄養摂取の方法として、意思疎通の難しい寝たきり状態の高齢者に用いられることも多くあります。

在宅でも、胃ろうの高齢者の介護は可能です。ただ日常的に栄養剤の注入や胃ろう周りの皮膚、口腔ケアが必要なため、家族は協力して介護にあたる必要があります。介護施設への入居も、同様のケアが24時間可能であることが必要です。

胃ろうを造設したからといって、口からの食事ができなくなると決まったわけではありません。嚥下機能の低下が軽度であれば、胃ろうと口からの食事を併用し、リハビリに取り組むことも可能です。

胃ろうを造設すれば、生活が大きく変わります。家族の介護の状態や本人の希望、かかる費用、医師の意見などから総合的に選択すべき方法だといえるでしょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長