ご入居者様エピソードご入居者様エピソード「ありがとうを伝えたい。」ご家族様、ご入居者様、スタッフの物語

エピソード01母が最期に伝えたかったこと

「母には病気のことは知らせずにいようと思います。」
お母様のご入居に際して、T様はこのように仰いました。

「告知をしない」方を迎え、看取らせていただく。

この難しさを前に、アルファリビングとしてどう向き合っていくか。
それは結果的に、私たちにとって大きな気づきと感謝の日々となりました。
今回はそのことについて書いてみようと思います。

病気の告知をしないまま、入居を進めるのは苦労もありました

T様が介護にかかわるきっかけとなったのは、県外でひとり暮らしだったお母様が体調を崩され、大きな病気が発見されたことでした。娘様であるT様は、近くに家族がいない県外のご実家よりも、T様ご夫妻がお住まいの高松で介護施設を探した方がよいと考え、サービス付き高齢者向け住宅「アルファリビング高松百間町」へのご入居を検討されることになりました。

「アルファリビング高松百間町」があったのはT様の職場の近く。
お母様がご入居後も毎日仕事の行き帰りに寄れると思い、アルファリビングを選んでくださいました。
ただ、お母様には病気の告知をしていませんでした。ご実家を大切にしているお母様に対して、病気のことを伝えないままに高松への移住の話をするきっかけがつかめずにいました。

それでも病状は少しずつ進行し、いよいよ一人の暮らしに限界が来ることもあって、意を決してご説得にあたります。
当然、お母様は「自分の家で暮らし続けたい」と移住には断固拒否されます。
それでもT様は説得を幾度となく繰り返し、御夫妻で何度も県外のご実家へ足を運びました。

最終的にはその説得が通り、お母様が折れた形でのご入居となりました。
なお、T様にはお兄様もいらっしゃいました。ご入居にあたってはお兄様も説得されたとのことでしたが、妹のT様とはどこか温度差があるような印象がこの時は少し気になっていました。

ご入居されるまでに、スタッフで何度も何度も話し合いをしました

お母様のご入居が決まると、施設長である私はまずスタッフにこの経緯を話しました。

ご本人様は家を守りたい思いを抱え、喜んで高松に来るのではないこと。
ご本人様には最期まで病気の告知はしないこと。
T様もお母様のことはとても大切にされていて様々な葛藤を抱えていること。

看取りは何度も経験していたスタッフ達でしたが「告知をしない」方への看取りの難しさに戸惑いを感じていたようです。
それでもスタッフ皆、前向きに何度も何度も話し合い、意見交換をしました。
良い関わりをしていきたい、そしてご家族様の想いも汲み取りたい。
その一心でスタッフが看取りと向き合ってくれたことに後から振り返ると、涙が出る思いです。

たわいのない日常と、日々積み重なっていく重圧

T様たちが説得してくださり、お母様がご入居されたのは暑い夏の日でした。
ご病気は進行していましたが、入居後1ヶ月くらいはレストランに降りて来られたり、T様とお散歩にも出かけることが出来ていました。
ですが、少しずつ痛みを訴えられベッドにて過ごされることが多くなってきました。

痛みを取り除くために医師と相談して薬を変更したり、スタッフや娘様や必ず誰かが部屋を何回か訪れ、ご本人を不安にさせないように気を配ったり、手をさすったり、たわいもない話で笑わせたり…スタッフとT様の信頼関係が日々積み重なっていく、そんな毎日でした。

そんな時にT様より相談があったんです。

「兄に母の状況を知らせているのですが、離れているせいかなかなか理解してくれなくて・・ 病気のこともよくわかっていないみたいで、母の調子が悪いのはおまえがよく見てないからだろうと言われるんです・・ それがつらいです。仕事を辞めたほうがいいんですかね…」

ふと気づくと、T様は涙を浮かべてらっしゃいました。

私たちにできることは何かないだろうか

「たったひとりの兄と上手くいっていない。 大切な母はもう死が目前…夜、突然寂しくなって泣いてしまうこともあるんです」

T様は全てを抱え込み、自分を責めて自己嫌悪に陥り疲れも溜まっていて・・心のサポートが必要な状態でした。

「小さいころから兄とはうまくいってなくて、兄に対して劣等感があり兄が言うことに対して意見があっても何も言葉がでてこない時もあったり…。
母はそんな私たちのことをよく知っていて、『あんた達が仲良くなってくれることが願いやわ。』
といつも言うんです。母の最期の願いを叶えてあげたいのにどうしていいのかわからないんです。」

と私たちに正直な胸のうちを打ち明けてくれました。

これは何としてでも叶えて差し上げなくては…。
スタッフ皆が同じ思いのもと、一致団結をした時でした。

それからは、お兄様が面会に来る度、
妹のT様がどれだけの想いを抱えお母様に関わっているか、
そしてお母様の想いもそれとなく伝え続けました。

同時に、T様の声なき声に寄り添い、
時にはじっくり話を聴き、気持ちが少しでも軽くなりますよう、
そして自分を責めることのないよう、スタッフも一丸となり寄り添い続けました。

やがて、T様とお兄様が話しているときの表情も変わってきて

「兄もだんだんわかってきてくれてるような気がします。」
「あまり構えず話できるようになりました。」

と前向きなお言葉がいただけるようになりました。

さらにうれしいことに、お兄様からもお母様の病状や、T様の心情を受け入れてくださるようになり、
私たちとも気さくに話をしていただけるようになりました。

家族同士だからこそ本音や愚痴を言いにくい時もあります。
そんなご家族様もご入居者様同様、支え続けたい…。
そんなスタッフの想いが実を結んだ瞬間でもありました。

介護で看取りをするということ

このようにお二人の関係が改善されていく中、反対にお母様の状況はより厳しくなっていきました。
しかし娘と息子が仲良くお母様のお部屋で話ができている雰囲気がわかったのでしょう…

「ふたりが楽しそうに話してくれて良かった・・」
と痛み止めでもうろうとしている中、優しい微笑と共にそんなお言葉もありました。

看取りとは迎えるゴールが「死」なわけですからどんなご家族様でも後悔しないわけがありません。
でも気丈にもT様はいつもお母様の前では笑って過ごし、お母様もそれに応えようとされていました。

そして、そのご家族様やご本人の揺れる心の動きを読み取り、
スタッフ皆がしっかりと対応させていただく・・そんな看取りをさせていただきました。

最期…ゆっくりと潮が引くように命が消えていくその瞬間に、ご家族様が立ち会えたことは2年経った今でも感謝の気持ちと共に鮮明に記憶に残っています。

葬儀が終わりT様がアルファリビングにご挨拶に来てくださいました。

「振り返ると本当にいろいろなことがすごいスピードで過ぎ去ったけど、ここを見つけて、ここで最期まで過ごすことができて、私たちは幸せでした。本当にありがとうね。」

と何より嬉しいお言葉をいただき、涙が止まりませんでした。

最後に

介護をご家族様ごと支える… そんな言葉が気持ちに素直に入ってくる看取りをさせていただけたこと。 そしてそれはアルファリビングのスタッフさんたちでなければ、出来なかったことだと自信をもって言えます。

T様。ご家族様。本当にありがとうございました。

施設長(現 アルファリビング高松紺屋町)

真鍋 友香子

平成22年 入社
平成24年 アルファリビング高松百間町 施設長
平成29年 アルファリビング高松紺屋町 施設長

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