お役立ちコラム

老人ホームや介護施設への入居を検討する際、多くの方が気になるのが費用です。施設によって提供されるサービスや設備が異なるため、入居時の初期費用や毎月の支出に大きな差があります。

本記事では、介護施設の種類ごとに入居費用の相場や月額料金の内訳を詳しく解説します。初めて施設選びをする方でも安心できるよう、費用を抑えるためのポイントもご紹介します。

介護施設の種類

介護施設は大きく公的施設と民間施設に分けられ、それぞれ対象者や役割が異なります。

<公的施設>

  • 特別養護老人ホーム
  • 介護老人保健施設
  • ケアハウス(軽費老人ホーム) など

公的施設は、主に介護が必要な高齢者を対象としています。

<民間施設>

  • 介護付き有料老人ホーム
  • 住宅型有料老人ホーム
  • サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
  • グループホーム など

民間施設は施設ごとにサービスの内容や費用が異なります。それぞれの施設の特徴を理解し、ご自身やご家族に最適な選択をすることが重要です。

老人ホーム・介護施設の利用でかかる費用

施設の利用で発生する主な費用は次の2つです。

  • 入居一時金
  • 月額利用料

それぞれの費用の内容について見ていきましょう。

入居一時金

入居一時金とは、一定期間の月額利用料を前もって支払う「前払い金」のことです。入居一時金を支払うことで、通常よりも月額利用料を抑えられます。費用は施設によって異なり、数十万円から数千万円とさまざまです。老人ホーム側からすると、入居一時金は資金繰りを円滑にし、経営を安定させるための重要な資金源となります。

入居一時金は、家賃の前払いとして導入されています敷金とは異なり家賃の前払いという目的で導入されています。敷金は家賃滞納や居室修繕費の担保金ですが、入居一時金はまったく違う性質のものです。またサービス付き高齢者向け住宅では、入居一時金ではなく敷金が徴収されることもあります。

入居一時金は、初期償却後、毎年分割して使用される「償却」という仕組みが取られているのが特徴です。途中で退居した場合や、入居者が亡くなった場合には、未償却分が返還されます。施設によって初期償却や償却期間が異なり、返還金額に違いが出ることもあるため注意しましょう。

さらに、入居契約後90日以内であれば「クーリングオフ」が適用され、初期償却分を含むすべての入居一時金が返還される制度もあります。また、万が一施設が倒産した場合には「保全措置」があり、最大500万円までの金額が戻ってくる仕組みもあります。

入居一時金のメリット

入居一時金を支払うメリットは、月額費用を抑えられる点です。多くの介護施設では、入居一時金を納めることで、月々の支払いが減額されます。

具体的には、月額料金が2万〜4万円程度安くなることが一般的です。これにより、長期的に見て総支出を抑えられ、経済的な負担を軽減できます。

入居一時金のデメリット

入居一時金のデメリットとして、高額であることやトラブルの元となりやすいことが挙げられます。

入居一時金は入居時に支払う費用の一部ですが、高級な施設ではかなりの高額となり、納める側にとっては大きな経済的負担となりがちです。

また、入居一時金を巡るトラブルに巻き込まれる可能性もあります。クーリングオフや保全措置といった公的ルールが存在するため、資金が持ち逃げされるリスクは低いとはいえ、ルールが適切に守られないケースもあります。

その結果、行政の指導や裁判を通じて返金までに時間と労力がかかることがあるため、慎重に検討することが重要です。

入居一時金が不要な施設もある

入居一時金が不要な施設もあります。高齢者施設は大きく分けて、介護保険の指定を受けて社会福祉法人などが運営する「介護保険施設」と、民間企業が運営する「有料老人ホーム」の2つです。

介護保険施設として知られる特別養護老人ホームや介護老人保健施設などは、入居一時金が不要で、毎月の利用料だけで入居可能です。

月額利用料

月額利用料とは、老人ホームや介護施設に入居したあとに毎月かかる費用のことです。月額利用料は賃料や食費、管理費などが該当します。

月額利用料の一例は次のとおりです。

  • 家賃:施設に住むための費用
  • 食費:施設から提供される食事に対する費用
  • 管理費:施設の維持管理のための費用
  • 水道光熱費:施設内や居室で利用した水道・電気に対する費用
  • 介護費用:介護サービスを受けるための費用

さらに、月額利用料のほかに、日用品代やオムツ代、医療費や日常生活費などの個人で支払う費用も発生するため、注意が必要です。

入居一時金が0円の場合、月額利用料は高くなる傾向があるため、前払いが可能であれば入居一時金を支払っておくことで毎月の家賃を軽減し、月々の費用を抑えられます。

引越し費用

老人ホームへ入居する際に、引越し費用がかかるケースもあります。たとえば、引越し業者に依頼して自宅で使用していた家具や家電を持ち込む場合、運搬費用が発生します。

引越し業者の中には、高齢者向けの引越しプランを提供しているところもあり、これを利用することでスムーズな入居が可能です。費用は業者や運搬距離、荷物の量によって異なるため、事前に複数の業者から見積もりを取り、比較検討することをおすすめします。

老人ホーム・介護施設の月額利用料の内訳について

老人ホームや介護施設の利用を検討する際、毎月の利用料がどのように構成されているかを理解することは重要です。月額利用料には、施設介護サービス費用や管理費、居住費、生活費、食費、医療費、サービス加算、そして上乗せ介護費などが含まれます。

これらの費用は施設によって異なりますが、各項目の詳細を把握することで、適切な施設選びに役立てられるでしょう。

施設介護サービス費用

施設介護サービス費用は、介護施設に入居する際にかかる重要な費用の一部です。この費用は、施設内で提供される生活援助や身体介護といったサービスの対価として発生します。介護保険が適用されるため、自己負担は一定の割合に抑えられています。

具体的には、合計所得金額が160万円以下の方は1割、160万円を超える方は2割または3割の自己負担です。生活援助には掃除や洗濯、食事介助などが含まれ、身体介護には排せつや入浴の介助が該当します。

ただし、買い物代行や金銭管理などのサービスは介護保険適用外となるため注意してください。

管理費

管理費は、老人ホームや介護施設における共用部分の維持管理や、施設内で行われるレクリエーション活動の費用、さらには人件費などに充てられる重要な費用です。

民間施設では、管理費が月額料金の一部として設定されている場合が多く見られます。施設によっては、運営費として別途徴収されることもあります。

居住費

居住費は、公的施設と民間施設で料金体系が大きく異なります。

公的施設の場合、特別養護老人ホームやケアハウスの居住費は法律で定められています。同じタイプの客室であれば、どの施設でも金額は一律です。

また、入居者の収入に応じて自己負担限度額が設定されているため、予想外の高額な出費が発生することはありません。公的施設であるため、一般的に民間施設よりも居住費は安価です。

一方、民間施設の居住費は、施設ごとにさまざまです。一般の賃貸住宅と同様に、立地や日当たり、間取りなどの条件によって料金が変動します。施設の選択肢が多い分、ニーズに合った選択が可能ですが、費用もそれに伴い多様化します。

どちらの施設を選ぶかは、予算や希望する生活環境によって決めると良いでしょう。

生活費

老人ホームや介護施設での生活費は、日用品や嗜好品にかかる費用のことです。これらは個人で使用する物品であり、基本的には入居者個人の負担となります。たとえば、洗剤や歯磨き粉、シャンプーなどの日用品や、趣味で使う材料などが含まれます。

ただし、介護保険施設ではオムツ代が介護給付に含まれているため、自己負担に含まれません。民間施設ではオムツ代も自己負担となる場合が多いことは理解しておきましょう。

食費

食費に関しては、介護保険施設と民間施設で内容が異なります。介護保険施設では、1日3食分の食費が設定されており、たとえ食事を取らなかった場合でも「欠食」として3食分が請求されます。

ただし、長期間食事を取らないことが事前にわかっている場合は、その分の食費について請求をストップ可能です。また、食費には自己負担限度額が設けられているため、一定額を超える支払いが発生しないようになっています。

一方、民間施設の場合は、食費の設定が施設によってさまざまです。1日単位の「定額プラン」がある施設もあれば、1食ごとに詳細な料金設定をしている施設もあります。

介護保険施設とは違い、民間施設では欠食の場合に料金が請求されないことが多いです。また、豪華な食事を提供している施設もあり、その場合食費は高めになることがあります。

医療費

老人ホームや介護施設において、医師が常勤していない場合、入居者の健康管理は協力医療機関の嘱託医が担当することが一般的です。この嘱託医が専門的な処置が必要と判断した場合、入居者は他の医療機関を受診する必要があります。

この際にかかる医療的処置の費用、具体的には診察料、薬代、入院費などは、基本的に入居者の自己負担となります。そのため、医療費がどの程度かかるのか事前に把握しておくことが重要です。

サービス加算

サービス加算とは、施設で提供されるサービスや設備、人員体制などの内容に基づいて、基本の施設介護サービス費に上乗せされる金額のことです。加算対象の項目は法令によって定められており、各施設によって提供されるサービス内容や設備、人員体制が異なるため、加算される金額も一律ではありません。

上乗せ介護費

上乗せ介護費とは、民間施設において、介護職員が通常の配置基準を超えて多く配置される場合に、入居者に対して追加で請求される費用です。

介護保険法では、入居者3名に対し1名の介護職員を配置することが求められていますが、より手厚い介護を提供するために、この基準を超えて職員を配置する施設もあります。こうした施設では、手厚いケアにより安心して生活できる環境を提供する代わりに、上乗せ介護費が発生するため、注意しましょう。

老人ホーム・介護施設の費用相場について

公的施設と民間施設では、費用に大きな差があるため、選択肢を検討する際には注意が必要です。それぞれの施設における費用相場を解説します。

公的施設

公的施設には、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、ケアハウス(軽費老人ホーム)などがあります。これらの施設は、比較的低料金で利用できることが特徴です。

種類 入居一時金 月額費用
特別養護老人ホーム 0円 5万~15万円
介護老人保健施設 0円 8万~14万円
<介護型>ケアハウス(軽費老人ホーム) 0~数百万円 7万~20万円
<自立型>ケアハウス(軽費老人ホーム) 0~30万円 6万〜15万円

これらの施設は、比較的費用負担を抑えられるため、多くの家庭で利用されています。

民間施設

民間施設には多様な選択肢があり、それぞれの施設によって入居一時金や月額費用が異なります。

種類 入居一時金 月額費用
住宅型有料老人ホーム 0~数千万円 10万~30万円
〈自立型〉住宅型有料老人ホーム 0~数億円 8万〜30万円
〈介護型〉住宅型有料老人ホーム 0~数億円 10万〜30万円
〈自立型〉介護付き有料老人ホーム 0~数億円 15万〜35万円
〈介護型〉介護付き有料老人ホーム 0~数億円 15万~40万円
〈自立型〉サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) 0~数千万円 5万~25万円
〈介護型〉サービス付き高齢者向け住宅(サ高住) 0~数百万円 10万~40万円
グループホーム 0~100万円 15万~30万円

各施設の特徴と費用を理解し、ご自身やご家族に合った選択をすることが重要です。

老人ホーム・介護施設の利用料金の支払方法

老人ホームや介護施設の利用料金の支払方法には、主に「一時金方式」「一部前払い・一部月払い方式」「月払い方式」の3つがあります。

一時金方式は、終身にわたって支払う家賃などを全額前払いする方式で、入居後の大きな支払いがないという点がメリットです。一部前払い・一部月払い方式は、家賃の一部を前払いし、残りの料金を月々支払う方法を指します。返還金制度により、未償却分が返金される可能性がある点はメリットです。

月払い方式は、毎月決まった料金を支払う方法です。利用料が変動する可能性があることには注意しましょう。

老人ホーム・介護施設の費用負担を抑えるポイント

老人ホームや介護施設への入居を考える際、費用負担を抑える方法を知っておくことは重要です。老人ホーム・介護施設の費用負担を抑えるポイントを紹介します。

初期償却の割合と入居期間を比較する

老人ホームへの入居を考える際には、初期償却の割合と想定している入居期間を比較することが重要です。

たとえば、入居一時金が300万円で初期償却がない場合、年30万円の償却により、1年弱で退去すると270万円が返金されます。しかし、初期償却が30%の施設では、入居時に90万円が差し引かれ、返還金額は180万円に減少します。

短期間の入居や住み替えを予定している場合は、初期償却がない施設や月払い方式を導入している施設の検討がおすすめです。予期せぬ出費を抑えられ、経済的な負担を軽減できます。

介護保険サービスを利用する

介護が必要な方が老人ホームや介護施設を利用する際は、介護保険サービスを活用することで費用負担を軽減可能です。介護保険サービスを利用すると、要介護度や所得に応じて、さまざまな介護サービスを1~3割の自己負担で受けられます。

たとえば、介護付き有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護指定施設)では、介護サービス費が要介護度に応じた毎月定額制となります。また、住宅型有料老人ホームの場合は、個人が利用した介護サービス分のみが支払い対象です。

なお、介護保険サービスを利用するためには、市区町村の介護保険担当窓口や地域包括支援センターを訪れ、ケアマネジャーに「ケアプラン」を作成してもらう必要があります。

費用負担を減らせる制度を利用する

制度を利用することで、老人ホームや介護施設の費用負担を減らせます。主な制度は次の5つです。

  • 医療費控除
  • 高額介護サービス費支給制度
  • 高額療養費制度
  • 介護保険施設の特別減額措置
  • 利用者負担軽減措置

医療費控除

医療費控除とは、年間で一定以上の医療費を支払った場合に、その超過分を所得から差し引ける制度です。この制度を利用することで、介護施設を利用する際の費用負担を軽減できます。

介護老人保健施設や特別養護老人ホームなどの介護保険施設においては、医療費や介護保険サービス費、食費、居住費、オムツ代が控除の対象です。

高額介護サービス費支給制度

高額介護サービス費支給制度は、介護保険サービスの利用費が月々の上限額を超えた場合に、その超過分が払い戻される制度です。この制度は、利用者の所得に応じて負担の上限額が設定されています。

対象者の条件 負担の上限額
課税所得690万円(年収約1,160万円)以上 世帯:14万100円
課税所得380万円(年収約770万円)〜課税所得690万円(年収約1,160万円)未満 世帯:9万3,000円
市町村民税~課税所得380万円(年収約770万円)未満 世帯:4万4,400円
世帯の全員が市区町村民税を課税されていない 世帯:2万4,600円
前年の合計所得金額と公的年金収入額の合計が年間80万円以下など 世帯:2万4,600円
生活保護を受給しているなど 個人:1万5,000円

参考:厚生労働省「令和3年8月利用分から高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」

高額療養費制度

高額療養費制度は、医療費が家計を圧迫しないようにするための制度です。この制度では、病院や薬局での医療費が1か月に一定額を超えた場合、その超過分が支給されます。

上限額は、年齢や所得に応じて決定されるため、条件次第では医療費の負担を大きく軽減できる可能性があります。

介護保険施設の特別減額措置

介護施設の利用に際して、長期的に支払いが難しいと感じる場合には、介護保険施設の特別減額措置が利用できることがあります。この措置では、入居中の食費や居住費が減額されます。

介護保険施設の特別減額措置を受けるためには、所得や貯金額が一定の基準額を下回り、自治体から「介護保険負担限度額認定証」が交付されることが必要です。

利用者負担軽減措置

利用者負担軽減措置は、経済的に困窮している方を対象に、介護費用の一部を軽減する制度です。この制度を利用することで、介護費用の25%が軽減されることが可能です。

ただし、施設を運営する社会福祉法人がこの制度を活用することを申告している必要があります。利用を考える際は、事前に自治体の福祉課に問い合わせを行い、希望する施設で制度が利用可能か確認しておくことが重要です。

市区町村や自治体によるサポート

各市区町村や自治体は、老人ホームや介護施設を利用する際の費用負担を軽減するために、独自のサポートを提供していることがあります。まずはお住まいの自治体に問い合わせて、利用可能なサポートがあるかを確認するようにしましょう。

老人ホーム・介護施設にまつわるQ&A

介護施設を検討する際、多くの方が抱える疑問や不安にお答えします。施設選びの参考にしてください。

年金だけで老人ホーム・介護施設で生活できる?

年金だけで老人ホームや介護施設で生活できるかどうかは、選ぶ施設と受け取っている年金の金額に大きく依存します。

厚生労働省の「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2021年度の厚生年金の平均月額は14万4,982円、国民年金の平均月額は5万6,428円でした。両方を満額受け取っている場合、月々約20万円を受け取れるため、安価な民間施設への入居も考えられるでしょう。国民年金のみの場合、年金だけでの入居は難しいかもしれません。

参考:厚生労働省「令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」

老人ホーム・介護施設の費用が払えない場合の対処法は?

老人ホーム・介護施設の費用が払えなくなった場合、まずは助成制度の活用を検討しましょう。介護保険施設の特例減額措置や利用者負担軽減措置、高額介護サービス費支給制度などが利用できるか確認することが重要です。

また、支払いが滞ったからといってすぐに退去させられるわけではなく、一般的には数か月の猶予が与えられることが多いです。契約書で詳細を確認しておきましょう。

費用が払えない場合、費用が安い施設への転居の検討や、施設の職員への相談などが有効な手段です。職員が他の施設を紹介してくれたり、支払日の延期について交渉してくれたりする場合もあります。

ただし、職員に相談すればすべてやってくれるわけではないため、自分でもインターネットなどを使って情報収集することが大切です。

介護施設への入居に必要な費用を把握しておこう

介護施設への入居を検討する際、最初に考慮すべきなのが費用面です。施設の種類や提供されるサービスによって、必要な費用は大きく変わります。初期費用としての入居一時金や、月々の利用料など、具体的な費用を把握することで、より計画的に準備を進められるでしょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長