お役立ちコラム

介護施設には、法律によって特定研修の実施が義務付けられています。介護施設における法定研修の種類は多く、適切に実施するには綿密な計画が必要です。

この記事では、介護施設に義務付けられている法定研修の内容と、計画の作成手順、おすすめの法定外研修について解説します。

介護施設の法定研修とは?

介護施設における法定研修とは、各種法令等によって実施するよう定められている研修を指します。特別養護老人ホームや介護老人保健施設、グループホームなど介護施設のタイプごとに定められた研修内容は異なるものの、毎年実施することに変わりはありません。研修の内容は多岐にわたるため、担当者は内容の検討や会場・講師の手配、実施の準備など大変でしょう。

ここでは、介護施設に義務付けられる法定研修の概要をみていきます。法定外研修との違いについても解説するため、参考にしてください。

未実施は減算対象になる可能性あり

法定研修を実施しないと、介護報酬が減算になる可能性があります。介護施設の種類によって義務付けられる法定研修が異なるものの、減算の可能性は共通です。

介護報酬は、介護施設の収入の大半を占めます。法定研修は、健全な介護施設運営のための義務といえるでしょう。

良質な介護サービスを提供するためには、すべてのスタッフが一定レベル以上の知識やスキルを身につけている必要があります。ただし、どの施設も経験豊富なベテランから入職したての初心者まで幅広いスタッフがおり、提供できるサービスの質も同じではありません。

法定研修は、「施設の収入を確保する」「介護サービスのクオリティをアップする」という2つの理由で、実施する必要があるといえます。

法定外研修との違い

各種法令等に定められてはいないものの、各介護施設が独自に計画し実施する研修が法定外研修です。法定外研修は、それぞれのニーズや方針に沿って内容が構築されます。

介護施設の経営側の立場から考えると、法定研修は施設が成立するための最低条件ともとらえられる義務です。法定外研修は実施することで法定研修を強化したり、スタッフの効果的なスキルアップが期待できます。法定外研修は、より高品質の介護サービスを提供するための付加価値といえるでしょう。

介護事業所の法定研修の内容

介護施設ごとに必要な知識やスキルは異なるため、必要な法定研修も変わってきます。下の表は、介護施設別の法定研修の一覧表です。

居宅介護支援 訪問介護 訪問入浴介護 訪問看護 訪問リハビリテーション 福祉用具貸与 通所リハビリテーション 通所介護 認知症対応型共同生活介護 特定施設入居者生活介護 介護老人保健施設 介護老人福祉施設 介護療養型医療施設 小規模多機能型居宅介護
認知症および認知症ケアに関する研修
プライバシー保護の取り組みに関する研修
接遇に関する研修
倫理および法令遵守に関する研修
事故の発生または再発防止に関する研修
緊急時の対応に関する研修
感染症・食中毒の予防および蔓延防止に関する研修
身体拘束の排除のための取り組みに関する研修
非常災害時の対応に関する研修
介護予防および要介護度進行予防の関する研修
医療に関する研修
ターミナルケアに関する研修
精神的ケアに関する研修
高齢者虐待防止関連法を含む虐待防止に関する研修

ここでは、介護事業所に義務付けられている14の法定研修を1つずつ解説します。

認知症および認知症ケアに関する研修

認知症や認知症を患う利用者への対応に必要な知識を学ぶ研修です。2024年からは「認知症介護基礎研修」として、すべての介護事業所のスタッフへ受講が義務化されます。認知症を患う人は、健常者とは異なる言動がみられるようになるため、より慎重な対応が必要です。

この研修は福祉関係の養成施設などで学んだ人や、医療・福祉関連資格を持つ人は受講対象から除外されます。

プライバシー保護の取り組みに関する研修

個人情報の適切な取り扱いや管理手法、情報漏洩の防止などについて学ぶ研修です。

介護業務は利用者の自宅や、入居型施設であれば居室というプライバシーが守られるべきエリアに立ち入って行われることがよくあります。生活の実情や金銭のやり取りなど、誰にも話したくないような事情に触れてしまうこともあるでしょう。

そのような仕事だからこそ、介護スタッフにはプライバシー保護を徹底することが大切です。

接遇に関する研修

接遇に関する研修では、言葉遣いや一般的なマナー、とくに訪問先での対応について学びます。

介護スタッフは多くの利用者やそのご家族、施設の取引先などさまざまな人と接する機会のある仕事です。人生の先輩でもある利用者には、敬意を表するための礼節や振る舞いを心掛ける必要があるでしょう。

倫理および法令遵守に関する研修

倫理観や法令遵守の必要性について、本来の意味や具体的な言動を学ぶ研修です。介護スタッフには、倫理や法令の遵守が求められます。介護施設のような利用者と間近に接する仕事では、利用者との人間関係に「この人なら信頼できる」といった信頼が必須です。

この研修はプライバシー保護研修と同様、すべての介護スタッフに義務付けられています。

事故の発生または再発防止に関する研修

この研修では、事故の発生するメカニズムや、事故を未然に防ぐ再発防止について学びます。介護の現場では、転倒などで骨折することも少なくありません。

事故を防ぐためには、事故の起こる原因や予防方法に日頃から注意することが大切です。研修では、事故が起きてしまったときの対応についても学びます。

緊急時の対応に関する研修

さまざまな緊急事態が起こったときに、どのように対応するとよいかを学ぶ研修です。

介護の現場でも、いつ緊急な事態が起こるかわかりません。事故・災害・感染症といった緊急事態が起こった際には、速やかで冷静な対応が介護スタッフに求められます。

とくに居住型施設では、緊急事態が発生しても利用者には安全・安心な生活を確保することが必須です。どのようなときも業務が問題なく継続できるよう、シミュレーションします。

感染症・食中毒の予防および蔓延防止に関する研修

高齢者にとって大きなリスクとなりうる、感染症や食中毒の予防・蔓延防止を学びます。

介護の現場では、感染症の流行や食中毒の発生に細心の注意が必要です。近年流行した感染症の1つ新型コロナウイルスでは、抵抗力の低い高齢者が罹患すると急激に悪化し、多くの死者が出てしまいました。また居住型施設では利用者がそろって同じメニューを取ることが多いため、食中毒によって利用者が生活できなくなるかもしれません。

そのような事態に陥らないよう、普段からどのようなことに注意すべきか、現状をどう改善すると効果的かを学びます。

身体拘束の排除のための取り組みに関する研修

複数の利用者が過ごす施設では、ほかの利用者に危険がおよぶと考えられる場合などにやむを得ず身体拘束することがあります。この研修で学ぶのは、身体拘束に該当する行為や状況、身体拘束することの弊害、身体拘束をしないですむ介助方法などです。

身体拘束は他者の体の自由を奪う行為であり、拘束された本人やその家族に与える影響は計り知れません。研修では、やむを得ず拘束する際の判断基準や手法を、事例を通して学びます。

非常災害時の対応に関する研修

この研修では、さまざまな非常災害への備えや対応について学びます。

どれほど注意していても、否応なしに危機に陥ってしまうのが地震や台風、大雨といった非常災害です。居住型施設で生活している利用者はとくに、施設内に残るのか避難するのかをどういった基準で判断するか、避難ならどこへどのように移動するかはあらかじめ決めておく必要があるでしょう。

介護予防および要介護度進行予防の関する研修

「特定施設入居者生活介護サービス」に従事するスタッフに対して義務付けられている研修です。

このサービスでは、利用者の日常生活の介助や機能訓練、療養上のサポートが行われます。要介護状態の悪化の予防に対する基礎的な考え方や必要な知識、対策、効果的な取り組みといったことを学ぶ研修です。

医療に関する研修

利用者のなかには、日常的な医療を必要とする方も多くいます。この医療には、業務として携わってよいもの(医療的ケア)と医療従事者でないと行えないもの(医療行為)があります。

この研修は、介護業務では禁じられている医療行為を明確に区別し、携われるものの手技や手順を学ぶために実施されるものです。

必要な資格を持たない介護スタッフが利用者に対して医療行為を行うのは、大きな事故にも繋がりかねません。医療に関する知識を増やすと同時に、禁じられている医療行為を行わないようスタッフに徹底する研修です。

ターミナルケアに関する研修

ターミナルケアとは、終末期にある利用者に対して行われる、医療・看護・介護を中心としたケアを指します。その人らしい旅立ちをサポートすることが目的です。

ターミナルケアの提供には、利用者本人やそのご家族からの同意が必要など、通常の介護とは異なる知識が求められます。概要や考え方、事例などから、包括的にターミナルケアを学ぶ研修です。

精神的ケアに関する研修

精神的ケアに関する法定研修は、利用者や家族、共に働く介護スタッフに対するケアのために行われます。研修内容は、利用者や家族からの言動への対処法や、仕事に懸命なあまりに陥りがちな燃え尽き症候群についての知識、新人への指導法や苦手な人との付き合い方などです。

高齢者虐待防止関連法を含む虐待防止に関する研修

認知症対応型共同生活介護に義務付けられているこの研修は、高齢者への虐待防止に関連する法律や、虐待防止そのものについて学びます。

虐待が起こる要因はさまざまあり、事例ごとに異なるため一律の対策は困難です。そのため介護施設において虐待が起こってしまう原因や虐待の種類などを学び、ケーススタディを通して対策に気づき、実際の現場に活かすよう促します。

介護施設の年間研修計画の3つの作成手順

法定研修を計画的に実施するためには、年間研修計画の作成が必要です。作成の手順は、以下の3ステップです。

  • 手順1.年間研修計画の表を作る
  • 手順2.実施する研修を決める
  • 手順3.スケジュール調整を行う

より学びのある研修にするためには、綿密な準備が必要です。とくに法定研修の種類が多い施設ほど、1年間を見越して無理なく実施できるよう立案しなければなりません。ここでは介護施設で法定研修の年間計画を作成する手順について、考えていきましょう。

手順1.年間研修計画の表を作る

まずは、研修の年間計画をまとめます。実施が義務付けられている研修の内容を書き出しましょう。それぞれの対象者を定め、実施の担当者を決めます。

年間計画表の例は、以下のとおりです。

研修内容 対象者 担当 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
接遇研修 全職員 〇〇
法令遵守 全職員 △△
ハラスメントへの対応 介護職員 〇〇

実際には、自施設に必要な法定研修の数の行数を作成します。

手順2.実施する研修を決める

次に法定研修の要件を満たすよう、実施する研修を決めます。そのあと、施設のニーズや状況に応じて、法定外研修を計画しましょう。

研修にあたり、すべての研修を施設内で実施する必要はありません。より無理なく、効果的に学べるのであれば、社外で実施される研修を組み込むことはできます。受講など研修にかけられる予算や施設の状況から、可能な方法での実施を検討しましょう。

手順3.スケジュール調整を行う

最後に、各研修の実施スケジュールを調整します。法定研修の実施は必須のため、対象者が無理なく、全員受講できるよう計画することが大切です。

実施の頻度についての制限はありませんが、あまり詰め込みすぎたり期間が空きすぎたりしないよう、おおむね最低月1回の実施をベースに計画しましょう。

参考:厚生労働省|職員研修計画

介護施設におすすめの法定外研修

法定研修は、介護施設において必須とされる知識やスキルを学ぶための研修ともいえます。しかし施設によっては介護の特殊なニーズや今後の施設のあり方、将来に備えた人材確保のための研修が必要な場合もあります。

このような場合におすすめできるのが、法定外研修の実施です。ここでは、おすすめの法定外研修を解説します。

資格取得のための研修

より質の高い介護サービスを提供するためには、スタッフ1人ひとりのスキルアップが効果的です。施設によっては費用を補助する場合があるほか、外部から講師を招くなどして試験対策の講座を開講することもあります。

介護の資格としては挙げられるのは、介護職員初任者研修や介護福祉士、ケアマネジャーです。ほかには、社会福祉士や精神保健福祉士などがあり、それぞれ異なる役割を持ちます。今後の施設の方向性によっては、これらの資格取得をサポートする研修も必要になるかもしれません。

たんの吸引等の研修

施設の利用者のなかには、たんの吸引や経管栄養が必要な方もいます。2011年の法改正により、介護福祉士および一定の研修を受けた介護職員等は、これらの医療行為を行えるようになりました。

寝たきりの利用者が多いなどニーズが高い施設では、この「喀痰(かくたん)吸引等研修」の受講を積極的にサポートしています。研修には、座学による基本研修のほか、病院や登録施設などでの実地研修が必要です。費用がかかりますが、施設によっては補助をしています。

今すぐ必要な場合はもちろん、将来に備えておきたい施設は、喀痰吸引等研修の導入を検討してみてください。

年間計画を立てて介護施設の法定研修を実施しよう

介護施設に必要な法定研修は、施設によって内容が異なります。適宜実施しなければ、介護報酬が減算されかねない重要な研修です。取りこぼしがないように、年間で計画を立て確実に実施しましょう。その際には、研修の年間計画作成がおすすめです。

法定研修は、実施するだけでなく、介護スタッフが実際に役立てられなくてはなりません。対象者がしっかり受講できるよう、スケジュールを含めた環境づくりが大切です。必要に応じて資格取得のための研修やたんの吸引等の研修など、法定外研修も盛り込む必要があるでしょう。

スタッフのスキルアップは、介護サービスの質の向上に繋がります。より良質な介護サービスを目指し、工程研修を効果的に実施しましょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長