お役立ちコラム

介護の現場でも、すべての業務が安全に問題なく完了できるわけではありません。なかには「もう少しでケガをするところだった」とヒヤリとすることがあるでしょう。「これは危険だ」とハッとすることもあるかもしれません。

このような事態は、「ヒヤリハット」と呼ばれます。ヒヤリハットは「大事に至らなくてよかった」で済ませるのではなくこれからの安全な介護業務に活かすことが大切です。ここでは、ヒヤリハットの重要性と活用方法、報告書を記入する上での注意点を解説します。

ヒヤリハットとは

ヒヤリハットは、一歩間違えると事故になっていたような「ヒヤリとした」事態や、将来深刻な事故につながりかねない「ハッと」気付かされるような事態をいいます。どちらも幸い大事には至らなかったかもしれません。しかしそのまま放置すれば再発し、ヒヤリハットでは済まないでしょう。

介護の現場でも、ヒヤリハットにはしっかりした対策が必要です。ここでは、ヒヤリハットと介護事故との違いと対策の重要性について考えます。

ヒヤリハットと介護事故の違い

ヒヤリハットは「事故に至らなかった」事態であり、介護事故は「事故となってしまった」事態という点が違いです。

たとえば利用者がイスの脚につまずいたが、幸い側のスタッフが体を支えたため転倒せず座り込んだだけですめば、転倒という事故に至らなかった「ヒヤリハット」とされます。しかし転倒してしまったら、それはケガの有無や軽傷・重症に関係なく「事故」です。

ヒヤリハットと介護事故の違いは、「事故を未然に防げたかどうか」が基準といえます。

ヒヤリハットを考えて対策する重要性

介護事故が起こると、再発しないよう対策が求められます。一方のヒヤリハットは、介護事故につながる可能性の高い、「事故の卵」といえる状態です。介護事故と同様、二度と起こらないよう対策が求められます。これはハインリッヒの法則に基づく、危機管理の考え方です。

ハインリッヒの法則によると、「重大事故」「軽微な事故」「ヒヤリハット」の3段階に分けた場合、1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故が、さらにその背後には300件のヒヤリハットが存在します。これは、1931年に実際の工場で発生した5,000件の労働災害から導かれた法則です。

ハインリッヒの法則を踏まえれば、軽微な事故や重大事故を防止するため、ヒヤリハットにもしっかり対策する必要があるといえるでしょう。ヒヤリハットの事例を集め、記録分析することは、これからの介護事故防止にとって重要です。

参考:厚生労働省「ハインリッヒの法則」

ヒヤリハットが生じる原因

ヒヤリハットは、介護サービスの現場のさまざまな場面でも生じる可能性があります。考えられる原因は、利用者自身や支援する側といった人的なものと、施設など利用者が過ごす環境的なものです。

ここでは、ヒヤリハットの原因を「利用者」「支援する側」「環境」の3つに分けて解説します。

利用者本人による原因

利用者本人が原因となるケースでは、まず身体の不自由さからくる転倒や転落などが挙げられます。リビングのソファやトイレの洋式便器から立ち上がるとき、さらに浴室に入るときなどの日常動作です。

利用者本人が原因となるヒヤリハットは、スタッフが利用者一人ひとりの身体状況や体力を把握し、毎日の様子を観察、共有することで対策できます。そのためにはスタッフ全員の観察力と正確に報告するスキル、情報共有の重要性への理解が必要です。

支援する側(職員や家族)による原因

本来利用者を支援する側の施設スタッフや家族が、ヒヤリハットの原因になることもあります。たとえば、慢性的な人手不足のため業務などの負担が大きく、疲労で集中力や注意力が低下しているケースです。これは在宅介護における家族にも、同じことがいえるでしょう。

とくに在宅介護の担い手は、特定の家族に集中しやすいため注意が必要です。認知症の進行によって始まった徘徊など、利用者の状態の変化に対応できないケースも起こりやすくなります。

環境による原因

介護が行われる環境を原因とするケースには、玄関や居室の出入り口や通路、浴室でお湯に浸かるときの浴槽の高さ、中庭に通じる縁側の段差などが考えられます。廊下に折りたたんである車椅子に衣服が引っかかってしまうケースも、環境によるヒヤリハットの1つです。

比較的小型の設備の配置ならすぐに改善できますが、施設のつくりや大規模な設備であれば手間や費用がかかります。それだけに、できるだけ速やかな着手が必要です。

ヒヤリハット報告書を記入する際の注意点

介護の現場で起こったヒヤリハット情報は、関わる全員が共有するために報告しなければなりません。ここでは、ヒヤリハットの情報共有に使う報告書を記入する際の注意点を解説します。

できるだけ早く報告書を作成する

介護現場では、日々忙しく介護が提供されています。報告すべきスタッフも忙しいため、後回しにすると本来記入しなくてはならない詳細を忘れてしまい、正確な報告書が作成できなくなるかもしれません。ヒヤリハットの報告書は、できるだけ早く作成することが大切です。

客観的事実を書く

ヒヤリハットの報告書は、多くのスタッフと共有されます。主観的な意見や感覚ではなく、事実を客観的に書くことが必要です。記入するのは共有が必要な情報のみとしてムダな情報は省き、共有されるスタッフの貴重な時間を奪わないよう配慮しましょう。

専門用語を避けてわかりやすく書く

報告書は担当部署以外のスタッフが読むことも考え、部署だけで通じる用語やあまり使われない専門用語は避け、できるだけわかりやすく簡潔に書くことも大切です。

とくに介護現場におけるヒヤリハット報告書は、次のようなポイントを意識するとまとめやすいでしょう。

  • 原因の分析と特定
  • 事故防止に必要な具体的な対策
  • 共有すべき情報の明確化
  • 対策の介護としての適切さ

重要なのは誰が読んでも理解でき、全体を把握できることです。ベテランはもちろん新入スタッフにも配慮する必要があります。

ヒヤリハット報告書の活用方法

ヒヤリハットの報告・共有には目的があり、的確にまとめることでさまざまな効果が期待できます。また目的が明確なほど、報告書に適切にまとめたり、報告すべきヒヤリハットの発見したりするのにも役立つでしょう。

ここでは、ヒヤリハット報告書の活用法を紹介します。

職員間の情報共有

ヒヤリハット報告書は、スタッフ間で広く共有されます。発生した状況や有効な対策といった、詳しい情報を伝えるために有効です。また報告書をライブラリ化すれば、誰でも読み返せるため、新入スタッフの教育にも役立つでしょう。

報告書によって情報共有しやすい状況を作ることは、スタッフ全員の情報共有や事故防止に対する意識の向上、環境づくりにも効果を発揮します。組織全体が事故を予防するために効果的な対策を追求し、取り組みを続けるために適した方法といえるでしょう。

事故防止

ヒヤリハットで報告される事例は、「一例」にすぎません。しかし近い状況に陥る可能性はすべてのスタッフ・利用者にあるため、報告書に書かれた内容は広い意味で事故防止に役立ちます。

たとえば報告書にある「原因」を排除すれば、事故は防止できるかもしれません。また違う状況には報告書と異なる点が明らかな分、対応を変える根拠も明確になります。

とくに経験の浅いスタッフにとって報告書は、事前学習にも適したライブラリです。「どのような場合にどうすべきか」という判断基準を学ぶ、貴重な機会にもなるでしょう。

適切な介護の証明

ヒヤリハット報告書は、施設・スタッフが適切な介護を目指して積み重ねてきた努力を示す「証明」です。

万が一、他の施設で介護事故が起こっても、似た状況におけるヒヤリハットの報告書があれば、施設がどれほど適切に対応しているかを、報告書が証明してくれます。マスコミや行政からの問い合わせにもきちんと対応できるため、施設やスタッフ、ひいては利用者を守ることにもつながるでしょう。

介護現場でヒヤリハットを活用して事故防止に努めよう

介護の現場でも、ヒヤリハットが起こる可能性があります。利用者を安全にケアするためには、情報を速やかに共有することが重要です。

情報の共有には、ヒヤリハット報告書が用いられます。作成においては、「速やかに完成すること」「客観的な事実のみを記入すること」「専門用語を避けわかりやすくすること」が必要です。

ヒヤリハット報告書は、適切にまとめられ保管されなければなりません。スタッフ間の情報共有はもちろん、事故の防止や自施設の介護が適性である証明として活用できます。安全な介護のためにも、ヒヤリハットを大いに活用したいものです。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長