お役立ちコラム

四十肩や五十肩は40代や50代の人に多いと考えがちですが、実は高齢者にも起こりうる症状です。発症すると完治するまでに長い期間がかかるため、その間は適切に対処する必要があります。

ただ高齢者に発症すると、痛みによって気分が落ち込んだり夜眠れなかったりなど生活への影響は少なくありません。そこでここでは、四十肩や五十肩で起こる症状・原因・治療法などを解説します。

高齢者でもなりうる四十肩(五十肩)とは

四十肩とは、40代から50代を中心に頻繁に起こる肩関節の痛みや「腕が上がらない」「手が背中まで回らない」など肩周りの動作が制限される症状をいいます。いわゆる五十肩も症状は同じです。以前は50代に多い症状でしたが、最近は40代での発症も多いため四十肩と呼ばれることが多くなりました。

一般人口の2%から5%に発症するといわれ、男性よりも女性に、利き手ではない肩にやや多いといわれています。両方に同時発症するのは稀ですが、片方が発症するともう片方にも発症する可能性もあるため注意が必要です。

四十肩(五十肩)の症状

四十肩や五十肩の主な症状は、肩の痛みと痛みにより動きが制限されることです。症状が長く続けば、痛みによって気分が沈みがちになったり、毎日の暮らしのさまざまな場面に問題が発生したりするため、早めに対処する必要があります。

うまく対処するには、四十肩または五十肩の症状の把握が欠かせません。ここでは、四十肩や五十肩の主な症状をみていきましょう。

肩を動かした時の痛み

四十肩または五十肩の症状には、次のようなものがあります。

  • 腕を上げようとすると痛む
  • 手先を背中に回す途中で痛みが出る
  • 肩を開くだけで痛む
  • イスに肩を動かさずに座っていても痛む など

痛む時の肩の動かす方向は一定ではなく、いわば全方角、どのように動かしても痛む状態だとわかります。痛みの強さも人によって異なり、最初からあまり痛みがない人もいれば、常に強い痛みに悩まされている人もいるなどさまざまです。

痛みが続く期間も、自然に数か月で回復する人もいれば2年以上悩まされる人もおり、対処が必要な期間はかなり違います。

夜間の痛み

日中だけでなく、夜眠っている時間帯に痛みが悪化するのも、四十肩・五十肩の特徴的な症状です。このような「夜間痛」は発症してすぐの期間に起こりやすく、ひどいと眠っていても目が覚めてしまったり、痛みのため眠れなくなったりします。

四十肩(五十肩)の3つの病期

四十肩・五十肩は十分改善するまでに、1年から3年程度の期間がかかるといわれています。その間「急性期(炎症期)」「凍結期(拘縮期)」「慢性期(回復期)」をたどり、それぞれの半年間継続するのが一般的です。

ただ期間の長さは人によって異なるため、今どの病期にあたるのかはそれぞれの状態から判断します。ここでは、3つの病期を1つずつ詳しくみていきましょう。

急性期(炎症期)

急性期は炎症期とも呼ばれ、四十肩・五十肩が発症し始めた時期のことです。強い痛みを感じるため、すぐにわかるでしょう。

肩を中心に腕を動かすと痛みが出るだけでなく、安静にしていても、夜間眠っているだけでも痛むこともあります。生活のリズムが狂うのはもちろん、それまで当たり前にできていた「タンスの上のものを取る」「電灯のスイッチを指で動かす」というような日常生活動作に支障をきたし始めるのもこの時期です。

なかには「肩がジンジンする、ズキズキする」と訴えたり、無理に動かして炎症がすすんでしまい、痛みが増したり肩が動かせなくなったりすることもあります。

凍結期(拘縮期)

拘縮期とも呼ばれる凍結期には、安静にしている時の痛みや夜間の痛みが徐々におさまってきます。しかし、痛みがなくなるわけではありません。急性期にあった「強い痛み」が、「鈍い痛み」または「筋肉が突っ張る感触の痛み」に変わります。

これは、炎症によって癒着が起こるための症状です。痛みがおさまる代わりに「腕が肩の高さより上げられない」「腕が外向きにひねられない」など動きに制限が出やすくなります。

「服を着脱する」「エプロンなど腰の後ろで紐を結ぶ」「洗濯物を物干しに干す」といった動作が難しくなり、つらくなってくるのもこの時期です。

慢性期(回復期)

慢性期は、肩周りの痛みや動作の制限が徐々に改善し、回復する時期です。そのため、「回復期」とも呼ばれます。痛みも和らぎ、肩関節の可動域も改善するとはいえ、まだ痛みも制限もある状態です。しかし、日常生活での動作は改善されます。動かしやすくなるために、「肩が疲れやすい」と訴える場合もあるようです。

なかには、痛みや拘縮が後遺症として残ってしまう場合もあります。整形外科などを受診し、しっかりと治療する必要があるでしょう。

四十肩(五十肩)の原因

四十肩や五十肩の症状が現れる直接の原因は、肩の周りの炎症(関節周囲炎)や肩の関節包に起こる炎症や癒着(癒着性肩関節包炎)です。これらの炎症が発生するメカニズムは、まだ解明されていません。明らかな原因がなく発症することも、なにか別の病気に関連して発症する可能性もあります。四十肩・五十肩の予防は、難しいといえるでしょう。

ただ次のような項目は、四十肩・五十肩の発症になんらかの関連があると考えられています。

  • 長期にわたる日常生活や仕事、趣味などによって蓄積する肩への負担
  • 日常の姿勢不良
  • 糖尿病の既往

原因が明らかでなくても、痛みなどの直接の原因である炎症や癒着による拘縮といった症状の改善は可能です。

四十肩(五十肩)の診断

「四十肩や五十肩ではないだろうか」と感じたら、まずは整形外科などを受診し、診断してもらうことが大切です。症状や進行の程度には個人差があり、素人判断で対処すれば症状が改善しないばかりか、悪化してしまう可能性さえあります。

四十肩・五十肩の診断でチェックされるのは、初見として肩の痛みを感じる場所と肩の可動域における制限の度合いです。場合によっては肩周辺をより詳しく調べるため、画像診断を行う場合もあります。

ここでは、四十肩・五十肩の診断にある2つの過程をみてみましょう。

問診・視診

四十肩・五十肩の問診では、どこが痛みを感じるかやどのような時に痛みを感じるかを尋ね、同時に視診で実際に腕を動かしながら、動きと痛みの関係を確認します。さらに触診による肩関節周辺のチェックは、他の病気との正確な鑑別に必要です。

四十肩・五十肩には、急性期での整形外科受診と状態に適した治療が求められます。早く対応すれば、比較的早く後遺症を最小限に抑えることも可能です。

画像診断

ここでいう画像診断とは、X線を使ったレントゲン写真による診断と、エコーやMRIによる診断を指します。

レントゲン写真では、四十肩・五十肩による異常の根拠は判明しません。レントゲン写真で異常がないものの、肩の痛みや可動域の制限があることで四十肩・五十肩と判断する場合もあります。

これは、四十肩・五十肩以外の異常がないことを示す意味で重要です。たとえば四十肩・五十肩と似た「石灰沈着性鍵板炎」では、レントゲン写真に異常が現れます。異常がないことは、診断する上で「石灰沈着性腱板炎」の可能性を排除する根拠となるためです。

またエコーやMRIによる診断では、腱板の損傷や断裂が現れます。これらは四十肩・五十肩と似た症状を示すため、的確な鑑別には必要な診断といえるでしょう。

四十肩(五十肩)と似た疾患

四十肩や五十肩に似たような症状を示す肩周りの異常は他にもあり、治療法も異なります。適切に治療するには、まず四十肩・五十肩であるかどうかの切り分けが重要です。

そこでここでは、四十肩・五十肩とよく似た症状の肩周りの異常を解説し、違いや診断方法を紹介します。

腱板損傷・腱板断裂

腱板の損傷や断裂は、肩の可動域の制限や夜間痛、運動による痛みを引き起こします。そのため、四十肩や五十肩と混同しやすいといえるでしょう。しかし四十肩・五十肩に見られる関節の動きが固くなる症状は少なく、腕も肩の高さより上げられるという2点において異なります。

腱板の損傷や断裂は、腱板が肩峰と上腕骨頭という骨と骨の間にあることが影響しているとされます。外傷によるものを除けばはっきりとした原因はなく、日常生活でなんらかの動作によって少しずつ傷つくためではないかと推測されている程度です。

腱板の損傷・断裂の診断では、「腕が肩より上げられるか」「拘縮があるか」などの診察で判断できます。これらの異常は、レントゲン写真やMRIでも確認可能です。

石灰沈着性腱板炎

石灰沈着性腱板炎は、夜間に突然発生する肩関節の疼痛があり、肩関節を動かせなくなるものです。この症状は四十肩・五十肩と似ており、動かす時の痛みは6か月続く場合もあります。

石灰沈着性腱板炎は、肩腱板の中に沈着した石灰(リン酸カルシウム結晶)が原因で発生する急性の炎症によるものです。はじめは液体である石灰も、時間と共に石膏状に変化して固くなり、増えるごとに痛みが増して、ついには腱板から破れ出てしまいます。突然発生する激痛は、このためです。

症状が四十肩・五十肩とよく似ているため、鑑別にはレントゲン写真などの画像診断を用います。画像では腱板部分に沈着する石灰が確認でき、その位置や大きさを調べるためCT検査や超音波検査を加える場合もあるようです。

四十肩(五十肩)の治療

「四十肩・五十肩は放っておいても治る」という人もいますが、そうとは限らないのが現実です。症状や進行の度合いは人によって異なり、治療も適切に行わなければ痛みが残ってしまったり、その後ずっと後遺症に悩まされたりする可能性があります。

四十肩・五十肩の改善には、状態に合わせた適切な治療が必要です。ここでは、四十肩・五十肩を治療する際の3つのステップを解説します。

薬物療法

四十肩・五十肩の激しい痛みで夜も眠れず、仕事が手につかないほどであれば、まずはその原因である炎症を鎮める必要があります。この際に用いるのが、薬物療法です。

一般的には、ステロイドや非ステロイド系の消炎鎮痛剤が用いられます。しかしステロイドには強い消炎作用があり、全身投与するとさまざまな副作用のリスクがあるため、肩関節への注射として使われます。何度も注射すると軟骨や腱を痛める可能性があるため、状態を見て慎重に調整することが重要です。

一方、非ステロイド系消炎鎮痛剤の副作用はステロイドほど強くなく、飲み薬として用いられます。薬物療法で症状がある程度緩和してくれば、リハビリ治療も可能です。

リハビリ

薬物療法によって炎症が落ち着き、痛みがある程度和らいできても、まだ肩の可動域は制限されることもあります。この状態を改善するには、リハビリが必要です。リハビリをしないと、日常生活での不便さは改善できません。

四十肩のリハビリは、痛みのために制限されている肩の可動域を広げようとするものです。そのため、痛みを伴いながら動ける限界まで肩を動かすこともあります。しかし強度すぎるリハビリには肩の炎症を強めてしまうリスクがあるため、調整が重要です。

リハビリの際には、理学療法士(PT)等の指導を受けると、適切な可動域を教えてもらえます。不安を感じる場合は、積極的に活用しましょう。

手術療法

薬物療法とリハビリにより、四十肩・五十肩の多くの症状は改善できるでしょう。しかしなかにはどうしても可動域が広がらず、痛みが続く場合もあります。このようなケースでは、手術療法が適応かもしれません。

手術療法では、可動域が小さくなる原因である関節包を内視鏡で観察しながら癒着を剥がして切開します。手術とはいうものの、内視鏡を用いるため手術創は比較的小さく、かかる時間も30分未満となる場合がほとんどです。終了後、肩の可動域はほぼ正常範囲まで改善します。

ただ構造的に可動域が広がったとしても、うまく動かせるようになるには練習する必要があります。手術後のリハビリも重要です。

自宅でできる四十肩(五十肩)の対処法

四十肩や五十肩はいつ痛み始めるか、痛みが強くなるかがわかりにくい症状です。そのため何かの作業や外出の途中や、睡眠中に突然痛みに始めることも十分考えられます。痛みが耐えられないほど強くなった時すぐに病院に行けない場合は、自宅でどうにか対処するしかないでしょう。

ここでは四十肩・五十肩について、自宅でできる対処法について解説します。

肩を動かして痛い時の対処法

四十肩・五十肩の治療では、痛みの原因である炎症を鎮めることが大切です。痛みがある程度の動きに耐えられるようになったら、少しずつ可動域が広げられるようリハビリを始め、徐々に痛みと可動域を改善していきます。

肩は、日常生活動作でも動いてしまう部分です。まだ十分痛みが和らいでいないのに動いてしまい、強い痛みを感じることもあるでしょう。あまりに痛みが強い時は、肩周りを動かさず安静に保つため、サポーターや三角巾を使うと痛みを抑えられる効果が期待できます。

ただし、これはあくまで一時的な対処法です。痛みがひどくなったら病院で受診し、症状に合わせた対処法を教えてもらいましょう。

寝る時の痛み(夜間痛)の対処法

肩の痛みは夜間、横になると強まるといわれていますが、原因はわかっていません。しかし横になった時の痛みが「出やすい体勢」と「出にくい体勢」はあります。ただ体勢による痛みの感じ方は個人差があるため、実際に対処する時は自身で試行錯誤しながら自分に合った体制を見つけるしかありません。

一般的に、痛みが出やすい体勢は「痛みのある方を下にした横向きの体勢」です。また痛い側の腕や肘が背中側にあると、痛みを強めやすい傾向があります。ただ、痛みが出にくい体勢を睡眠中に維持するのは、困難です。クッションなどを使って姿勢を調整するなど、工夫をするしかありません。

仰向けで寝る時には痛い方の腕や肘の下にクッションを敷くと、そちら側へ寝返りしづらくなり、背中側に回ってしまうことも防げます。また横向きに寝る時は、痛くない側の肩を下にして、背中に大きめのクッションを置き、お腹側にもクッションを置き抱えるようにする方法もあります。

四十肩(五十肩)を疑ったら受診しよう

四十肩や五十肩は、今も原因がはっきりとわかっていない厄介な症状です。肩周りに突然痛みを感じ始め、適切な治療を怠ると悪化するだけでなく後遺症が残る可能性もあります。痛みの程度は人によって、また状態によってさまざまです。

ただし、四十肩・五十肩に症状のよく似た別の疾患もあります。適切に対処するには、できるだけ早く病院を受診し、診断を受けることが必要です。その上で医師の指示に従って薬物療法やリハビリを受け、状況によっては手術によって適切に対処しましょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長