お役立ちコラム

「年々、夏の暑さが堪える」と感じている人は、多いかもしれません。平均気温を上回るような暑さの日も、一部の高齢者はエアコンをつけないといいます。エアコンの使用をすすめたところ、「暑くないから」などとやはり使わないという高齢者もいるようです。

このままでは熱中症の危険があります。なんとかしてエアコンを使ってもらえるよう説得できないものでしょうか。

この記事では、高齢者がエアコンを使わない理由と使わないことで起こるリスク、使ってもらうためのポイントを解説します。

エアコンを使いたがらない高齢者はおよそ10人に1人

三菱電機霧ヶ峰PR事務局の調査によると、「夏に積極的にエアコンを使わない高齢者は全体の13%存在する」ことがわかりました。毎年この季節になると、テレビなどで熱中症対策が叫ばれる中での数値です。

一方「高齢者と同居している人がエアコンを使うよう促したことがある」割合は、全体の約74%でした。そのうち「それでもエアコンを使ってくれないことを悩んでいる」という人は、60%以上にのぼります。この結果から、高齢者はエアコンを使いたがらない傾向があるといえるでしょう。

とはいえ、真夏日の日中、たとえ自宅ではあってもエアコンを使わずにいれば、熱中症になるリスクはかなり高いです。何か高齢者に共通する、使わない理由があるのかもしれません。

参考:三菱電機「【霧ヶ峰 Times】~霧ヶ峰は熱中症対策のために、快適な室内環境づくりの情報をお届けします~」

高齢者がエアコンを使わない主な理由

高齢者がエアコンを積極的に使いたがらない主な理由は、経済的理由と慣習的理由、身体的理由などです。これらの理由がクリアされない限り、高齢者がエアコンを使いたがらない傾向は続く可能性があります。

ただし、理由をきちんと理解すれば、エアコンを使える状況には近づけられるかもしれません。ここでは、高齢者がエアコンを使わない理由を解説します。

電気代を抑えたいと思っている

パナソニックの調査によると、60代以上の人がエアコンを使わない理由の1位は「電気代がかかる」です。過去に、エアコンを使ったことでいつもより電気料金がかかってしまった経験があるのかもしれません。「エアコンをつけっぱなしにすると電気代がもったいない」と、一時的に使ってもすぐに消してしまうケースもあるようです。

しかし、エアコンの運転で電力を消費するのは、つけた後30分ほどの間であることがわかっています。エアコンを一度消してつけ直すと、つけっぱなしにしているときよりも消費量が増え、電気料金は上がってしまうのです。

使っているエアコンが10年以上前のものであれば、今のエアコンに比べて電気代が高いかもしれません。しかし熱中症のリスクを考えれば、電気代は必要な経費といえるでしょう。

参考:Panasonic「高齢者におすすめしたい エアコンを使った熱中症対策」

エアコンは冷えすぎて体によくないと思っている

同じパナソニックの調査によると、2位は「冷えすぎる」、3位は「体に悪いと思うか」です。いずれも、自身の健康を心配している結果となっています。

適切なエアコンの使用は、暑い季節の体調管理に欠かせません。しかしこの回答からは「熱中症と比べれば、体が冷えすぎることの方が重大だ」という考え方が見えてきます。

夏の気温が上がっていることは明確であり、「今年は去年より暑いな」という印象は気のせいではないでしょう。熱中症のリスクを理解し、しっかり対策する必要があるのです。

加齢により暑さを感じにくくなっている

人間は通常、外気温が上がると体温も上がるため、汗をかくなどして体温を下げる機能が当然のように働きます。しかし高齢になると、皮膚の感覚や内臓の機能が低下するため、本当に暑さを感じづらくなってしまうのです。

高齢者の「暑くないからエアコンを使う必要はない」という言葉は、やせがまんなどではなく、実感なのでしょう。しかしこれは外気を暑いと感じなくなっているだけであって、「

身体機能に影響がないわけではありません。暑くないといいながら汗をかいていたり、気温に合わない服装をしている場合もあります。

そのまま放っておけば、熱中症になってしまう可能性は高いといえるでしょう。老化がもたらす暑さに対する感じ方が、熱中症のリスクを高めていることに注意が必要です。

高齢者が熱中症になりやすい理由とは

2022年(令和4年)10月に総務省が公表した報道資料によると、消防庁の調査で2022年(令和4年)5月から9月に全国で熱中症によって緊急搬送された人の数は71,029人でした。そのうち高齢者は38,725人と半数以上を占め、成人の24,100人を大きく上回っています。

暑さ対策の大切さがわからない幼児ならともかく、なぜ高齢者がこれほど熱中症になりやすいのでしょうか。ここでは、その理由を解説します。

参考:総務省「令和4年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」

体温調節機能の低下

人間は外気温の上昇によって体温が上がるため、汗をかくなどして体温を下げようとします。しかし高齢者は一連の対応に時間がかかることもあり、体温の上昇に対応するために十分な汗をかけません。結果、体に蓄積され続ける熱を体の外に出せず、体温は上昇しやすくなります。

せめて「暑い」と感じれば、体を冷やしたりエアコンをつけたりするでしょうが、高齢者は温度に関する感覚が弱く、暑さも感じにくい傾向があります。これら2つの特徴が示しているのは、体温調節機能の低下です。

水分保持機能の低下

高齢者は、同じ体重の若い人に比べて体内に保つことのできる水分量が少ないという特徴もあります。そのため水分をかく汗として使ってしまうと、それ以上の汗はかけません。

体内に十分な水分を保持するためには、水分補給が必要です。しかしこちらも高齢になるほど「喉が渇いた」という感覚を感じにくくなります。なんとかして水分を取らなくてはなりませんが、そもそも水分摂取の必要を感じないため、やはり十分な水分量が確保できません。

水分を保つ機能が低下し、水分を摂取するタイミングがわからないことは、高齢者が汗をかきづらくし体温の上昇を招きます。

水分摂取量の低下

高齢者は「喉が渇く」という感覚が乏しいため、必要な水分量を摂取するのが難しい状態です。ただもし水分を摂取しようと思っても、飲むときにむせ込んでしまうことを恐れて飲むことそのものを避けようとします。

「ただむせ込むだけで?」などと感じるかもしれません。しかし、むせ込みは誤嚥性肺炎の原因ともなり得る恐ろしい事態です。とくに高齢者にとっては非常に苦しく、なかには「むせるくらいなら飲むのを極力がまんする」方もいるでしょう。

水分を摂取するタイミングが感覚的にわからず、わかったとしてもむせることを恐れて摂取を避けるようになれば体内の水分量は減る、つまり熱中症になりやすい状態になります。

高齢者にエアコンをつけてもらうための4つのポイント

それでは熱中症になりやすい高齢者に、エアコンをつけてもらうにはどうすればよいのでしょうか。それにはいくつかの事実をきちんと理解してもらうことと、状況によってはエアコンそのものの対処が必要です。

ここでは高齢者にならないようエアコンをつけてもらうためのポイントを4つ解説します。

  • ポイント1.昔と今との気温の違いを理解してもらう
  • ポイント2.熱中症のリスクを理解してもらう
  • ポイント3.近年のエアコンは省エネ効果が高いことを理解してもらう
  • ポイント4.便利な機能の付いたエアコンへの買い替えを検討する

ポイント1.昔と今との気温の違いを理解してもらう

高齢者の中には、エアコンの利用を「がまんが足りない」などととらえる方もいるかもしれません。

しかし気温の変化に関する次の事実を知れば、それが危険な考え方だとわかるはずです。気象庁による報告「ヒートアイランド監視報告2017」によると、東京の気温はこの100年で平均気温が3.2度上昇しています。とくに暑さだけを考えると、真夏日の気温35度が38.2度となるほどの変化です。おそらく高齢者が若かった頃に比べ、気温は上がっているでしょう。

気温は、今後も上がっていくだろうと予測されています。来年の夏は、今年よりさらに暑くなるかも知れません。「暑さをがまんする」レベルはすでに超えており、暑さに適切に対処しなくては命に関わるレベルに達しています。この事実を、高齢者自身が理解する必要はあるでしょう。

参考:気象庁「ヒートアイランド監視報告2017」

ポイント2.熱中症のリスクを理解してもらう

高齢者には次のような傾向があるため、熱中症になりやすいといえます。

  • 加齢によって暑さや喉の渇きを感じにくい
  • 汗をかくなどの体温調節機能が、うまく働かないことがある
  • 体内の水分量が減りやすく、感覚的に摂取しにくい

体温は、知らない間に上がり続けることもあります。気がつけばすでに重症レベルに達し、手足の筋肉がつってしまって動けなくなり、意識を失う可能性も高いです。もしそのとき自宅でたった1人だったら、どうしようもありません。

気象庁・環境省の発表では、熱中症による死亡者の8割を65歳以上の高齢者が占めており、うち9割がエアコンを使っていなかったことがわかっています。高齢者には、熱中症が命に関わる恐ろしい症状であること、エアコンなどを適切に使えば避けられることなどを理解してもらうことが大切です。

参考:気象庁・環境省「熱中症の現状と対策について」

ポイント3.近年のエアコンは省エネ効果が高いことを理解してもらう

高齢者の中には、エアコンについて誤った知識を持っている方もいます。そのようなときは、次のようなエアコンに関する事実を伝え、理解してもらいましょう。

  • 最近のエアコンの電力消費は以前より少ない
  • エアコンを一度切ってまた入れなおす方が電気料金は高くなる
  • エアコンはつけっぱなしにしている方が電気料金を安く抑えられる

しかし使っているエアコンが古い場合は、電気料金も高くつく可能性があります。とはいえ、熱中症のリスクを放っておくわけにはいきません。買い替えも視野に入れ、早めに対策を検討しましょう。

参考:三菱電機「【霧ヶ峰 Times】~霧ヶ峰は熱中症対策のために、快適な室内環境づくりの情報をお届けします~」

ポイント4.便利な機能の付いたエアコンへの買い替えを検討する

近年、エアコンにはさまざまな便利な機能のついたタイプが登場しています。

  • 室内の温度の湿度によって自動で運転を開始する
  • ボタンを押すだけで、温度や湿度だけでなく省エネのバランスまでが計算した運転を始める
  • 人がいる場所を検知し、風を感じされないよう風向きや風量を調節する
  • 室内の状況をスマートフォンに通知する など

なかでも室内の状況を検知して自動的に作動するのは、暑さを感じにくい高齢者にとって頼もしい機能です。他にも必要な機能がないか調べ、熱中症のリスクを抑えてくれるエアコンへの買い替えを検討しましょう。

高齢者に熱中症の症状が出た場合の対処法

熱中症は、程度によってさまざまな症状が現れます。すぐに熱中症とわかる場合もあれば、そうでない場合もあり、見極めは容易ではありません。初期症状がないままに突然重度の症状が現れる場合もあるため、注意が必要です。

ここでは、高齢者に熱中症が出た場合の対処法を解説します。

熱中症の症状

熱中症の症状は、大きく初期症状と重度の症状に分けられます。あまりに軽いと見逃してしまう可能性もあるため、注意が必要です。

熱中症の初期症状

初期症状として、次のような症状が現れたときは熱中症の可能性を踏まえた対処が必要です。

  • めまい
  • 立ちくらみ
  • 顔のほてり
  • 手足の筋肉がつる、またはけいれんする(熱性けいれん)

初期症状では体温の上昇が見られない場合もあるため、上記のような症状とは別に、周囲の気温や湿度、水分の摂取状況、汗をかいているかどうかなどを総合的に見極めることが大切です。

重度の症状

もし次のような症状が見られたら、熱中症でも重度となっている可能性があります。

  • 倦怠感
  • 吐き気
  • 頭痛
  • 脱力感がありぐったりしている
  • 汗が止まらないまたはまったく汗をかいていない
  • 体の表面があつい

もし呼びかけに対する返答がおかしい、反応しないといった意識状態であれば、重症度はかなり高いといえます。すぐに救急車を呼び、病院などで治療を受けましょう。

熱中症の症状が見られたときの対処法

熱中症は、軽度であれば適切に処置することで改善する場合もあります。しかし、重度となると命の危険があるため、救急搬送するなどしてすぐに適切な処置を受ける必要があります。

ごく初期症状であれば、エアコンの効いた室内などの涼しい場所で安静にして、冷たい水やスポーツドリンクなどで水分と塩分を補給するのが先決です。同時に熱を下げるために衣服を脱がせたり、ベルトを緩めたりして、衣服の中の風通しを確保しましょう。

その際、首や両方の脇の下、足の付け根の前部分を通る太い血管を冷やすと、体全体の温度低下に効果的です。とくに重症の場合には、早急に体温を下げるよう努めましょう。

エアコンを上手に使い高齢者の熱中症を予防しよう

高齢者の中には、さまざまな理由のため夏の暑い日中でもエアコンの使用を避ける方がいます。しかし高齢者は暑さを感じづらかったり、体内の水分を確保しづらかったりするため、熱中症になるリスクが高いのです。対策としては、適切なエアコンの使用が挙げられます。

猛烈な暑さは、がまんや気のせいでは済まされないほど深刻になりつつあります。感覚による調整が難しければ、エアコンの機能などを利活用して、高齢者の暮らす環境を整えることが必要です。

熱中症による死者の大半は、高齢者が占めていることも見逃せません。これらの事実を高齢者自身に正しく理解してもらい、熱中症のリスクのある暑い夏を無事に過ごせるよう、お互いに努めましょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長