お役立ちコラム

介護施設には、多くの高齢者が入所しています。火災や地震などの災害に見舞われた際には、限られた介護者や職員で入所者の避難に対応する必要があります。まさかの災害は、夜勤時かもしれません。

いざというときに備えて、介護施設でも避難訓練が義務付けられています。この記事では、介護施設における訓練のポイントや準備、手順について説明します。

高齢者施設では年2回の避難訓練が必要

火災や台風、地震、洪水など、災害はいつどこで起きても不思議ではありません。「記録上数十年ぶり」とされるような災害は、全国の各地で発生しています。これは、介護施設も例外ではない出来事です。

そのため厚生労働省は、介護施設に年2回の避難訓練を義務付けています。施設によっては自立歩行が困難な方や認知症を患っている方も入居しているため、さまざまな状況にスムーズに対応できることが大切です。

また宿泊を伴う介護施設においては、2回のうち1回が夜間の消火や通報訓練を実施することとされており、職員の数が少ない夜勤の時間帯の万が一にも備えるよう求められています。

参考:介護老人保健施設における防火、防災対策について(◆昭和63年11月11日老健第24号)

避難訓練前に確認しておきたい防災設備

避難訓練をおこなうに、まずは介護施設に設置されている防災設備を確認しておきましょう。

宿泊を伴う介護施設には、消火器やスプリンクラー、自動火災報知器、屋内消火栓などの防災設備の設置が義務付けられていることがほとんどです。ところが、火災が起きても使い方や設置場所がわからなければ、有効に使うことはできません。一部の担当者だけが把握していても、やはり有効性は低いでしょう。

災害が発生すると、誰でも正常な判断が難しくなるものです。とくに入居している高齢者にとっては、頼りになるのは介護職員だけでしょう。どのような事態が起きても適切に使用できるよう、防災設備の場所や使い方は正しく身につけておくことが必要です。

避難訓練前に準備するもの

避難訓練を実施するためには、事前準備が必要です。まずは避難訓練マニュアルを参照し、過去の避難訓練の内容や手順などを参考に、今回想定する状況を定めます。ここでは避難訓練のために用意するマニュアルと、実際に訓練に必要な備品についてみてみましょう。

避難訓練マニュアル

介護施設には、年2回の避難訓練が義務付けられています。ただ義務的にこなすだけでは、万が一に備えているとはいえません。どのような訓練にするかという訓練計画を作成・実施し、実施結果の検証を次の訓練計画に活かすことが介護施設の避難訓練では重要です。

このサイクルを繰り返すうちに、「どの工程に職員が何人必要か」「どのようなことに留意し役割をどのように配分するか」という有効な避難計画が定まってきます。これをまとめたものが、避難訓練マニュアルです。

避難訓練マニュアルの目的は、災害時の介護職員のリスク意識を明確にし、行動の基準を定めることにあります。マニュアルに掲載されるのは、次のような内容です。

  • 災害時の職員の役割分担
  • 災害発生時の対応の手順
  • 緊急連絡網や避難経路図
  • 利用者の一覧表 など

そのため避難訓練を計画する際は、前回までの避難訓練マニュアルを参照することから始めます。前回までの反省を活かし、さらに効果的でスムーズな避難ができるようブラッシュアップできるよう努めましょう。

避難訓練に必要な備品

避難訓練の計画が具体的なものになると、必要な備品もはっきりとするでしょう。たとえば施設での火災を想定すると、次のような備品が必要です。

  • 避難誘導するための経路図:非常口や火災報知器、消火器などの位置も記載
  • 安全に避難するための備品:ヘルメットや車いす、担架、防災頭巾、拡声器など
  • 利用者様の安否確認で照合するための一覧表
  • 通報訓練のための電話機:内線電話など実機を使うと効果的
  • 出荷場所を特定するための目印:火災であれば赤いバスタオルなど
  • 訓練開始から点呼、確認までかかった時間を測定する など

参加する職員が手順や役割を確認できるように、作成した計画書や備品の一覧表を準備しましょう。また突然の訓練で慌てさせることのないように、利用者への事前説明といった配慮も欠かせません。

避難訓練の6つの手順

避難訓練では、できるだけ具体的な災害を想定することが必要です。訓練をより臨場感のある、実践的なものにするためには、下記のような手順が挙げられます。

  • 手順1.火災を覚知する
  • 手順2.現場確認する
  • 手順3.初期消火する
  • 手順4.避難誘導する
  • 手順5.消防隊へ情報提供する
  • 手順6.訓練の内容を振り返る

ここでは発生しやすい火災による避難を例に、避難訓練のより詳しい手順を考えてみましょう。

手順1.火災を覚知する

訓練は、火災の覚知から始まります。介護施設内での火災であれば、火災報知器による感知や利用者を含めた人による発見が考えられます。計画では、どちらを想定するかも訓練にとって重要なポイントです。

たとえば人が発見した場合、一緒にいない他の介護職員や入居者は火災の発生を知りません。そのため、火災の発生を知らせることが重要です。一方の火災報知器による覚知であれば、施設内の警報音が鳴り、施設内の人はすべて何かが起こったことはわかります。

このように、火災の覚知によって手順が異なるのは明らかです。それまでにおこなった訓練の検証から、どちらが適切かを判断して計画しましょう。

手順2.現場確認する

人による覚知の場合、火事が発生したことを声で知らせると同時に火災報知器や非常ベルを作動させます。通常、火災報知器が火災を感知すれば、警報と消防署へ自動的に通報されるため、119番通報する必要はありません。

手順3.初期消火する

初期消火を担当する職員は、火事の発生を声で知らせながら消火器を受け取り、さらに消火器を持って火災現場に向かいます。現場に到着したら、消火器ホースを固定して火災から約3メートルまで近づき、火元に消火剤が切れるまで放射しましょう。

実際には警報と同時にスプリンクラーが作動し、防火扉が自動的に閉まります。手動の場合は、担当職員が閉めるよう計画に盛り込みましょう。

手順4.避難誘導する

火の勢いが強く、天井まで達しているのであれば、現場にいるのは危険です。初期消火を諦め、利用者の避難誘導に向かいましょう。

自力で避難できる利用者には、適切な避難場所とルートを伝えます。しかし自分での避難が難しい場合には、利用者を抱えたり、背負ったり、車いすや担架などを使ったりするなどして迅速な避難へ誘導しましょう。

とくに難聴や視力低下、認知症の利用者には配慮が必要です。担当する職員を定め、しっかり寄り添って安全に避難することを第一としましょう。

手順5.消防隊へ情報提供する

避難場所では、利用者と介護職員が全員いるかどうかを確認します。避難ルートごとに避難訓練参加者の安否と人数、怪我人がいないかを確認し、怪我人には速やかに応急処置を施しましょう。

これらの情報は消防隊へ正確に提供し、消防隊の指示に従います。必要に応じて利用者様や介護職員の名簿、施設の図面なども提供できるよう備えましょう。

手順6.訓練の内容を振り返る

訓練が終了したら、次のような項目を振り返り、前回の結果と比較してみましょう。

  • 訓練開始から避難完了までにかかった時間
  • 通報、初期消火、避難誘導の流れがスムーズだったか
  • 避難誘導の際、危険がなかったか
  • 介護職員間の役割分担や指示が適切だったか
  • 適切な通報ができていたか
  • 避難経路は安全かつ適切だったか など

振り返りによって得られた気づきは、対策案として次回の訓練に盛り込むことが必要です。実際の訓練では、想定していなかった危険性や改善策が浮かぶことも多くあります。次回の訓練に盛り込み、より安全で適切な避難ができるよう努めましょう。

【ケース別】避難訓練時の確認ポイント

介護施設に発生する可能性がある災害は、火災だけではありません。地震や台風、洪水は状況が火災とは大きく違い、種類の異なる注意や確認が必要です。

ここでは火災以外の災害における避難訓練の、火災とは異なる確認ポイントについて解説します。

避難訓練(地震)の確認ポイント

地震は、いつ発生するかわからない災害の代表です。地震の規模によっては停電やガス漏れ、断水、交通麻痺による孤立化などが発生します。

地震発生で必要となる確認ポイントは、次のようなものです。

  • (停電時とくに夜間)明かりは使えるか
  • (停電時)エレベーター内に人が閉じ込められていないか
  • (停電時)自動ドアは停電時もカギがかけられるか
  • (停電時)外部との通信手段はあるか
  • (停電時)発電機や蓄電池など利用する電気は確保されているか
  • 医療的なケアが必要な利用者様には十分対応できるか
  • 出勤できる職員はいるか、また災害時の出勤・代謝のルールが決まっているか など

季節によっては、停電が命の危険に及ぶ可能性があります。過去の震災の例などを参考に、あらゆる事態を想定して備えることが大切です。

避難訓練(台風・浸水)の確認ポイント

台風や洪水は、比較的規模の大きさを想定しやすい災害といるでしょう。それだけに避難開始のタイミングや情報の入手、情報に基づいた的確な判断が重要になります。

 

台風や洪水における確認ポイントは、次の通りです。

  • (停電時)外部との通信手段はあるか
  • (停電時)発電機や蓄電池など利用する電気は確保されているか
  • 発令された特別警報の情報はどこから、誰が入手するか
  • 職員の出退勤ルートに危険はないか
  • 介護施設の浸水リスクは高いか
  • 周囲に暴風で飛んでくるようなものがないか など

とくに低地にある施設は、床上浸水してしまうとその場に留まることが難しくなります。そうなる前に避難するのが理想的ですが、避難できなかった場合は上層階などに移動する必要があります。自力での移動が難しい利用者をどのように避難させるか、より詳しい具体的な方法を決めておく必要があります。

避難訓練(ライフライン寸断時)の確認ポイント

災害時に命をつなぐものの一つが、食事です。停電になれば電子レンジやオーブントースターも使えず、冷蔵庫で食糧の保存ができなくなります。またガスが止まれば加熱調理が難しくなり、加熱せずに食べられるもので生き延びるしかありません。

食事を含め、電気やガスといったライフラインが寸断された状態での確認ポイントは次の通りです。

  • 備蓄されている食料や飲料水はどこにどれくらいあるか
  • 備蓄されている食料をどのように調理または提供するか
  • ガスや電気が供給されない場合、どのような不都合が考えられるか
  • 停電時にガスが復旧した場合、換気扇が作動しなくてもガスを使ってよいか(一酸化炭素ガスなどによる中毒の危険性) など

ここで紹介したのは、想定可能なものの一例です。介護施設の立地や気候などさまざまな要素を加味して、より具体的で有効な避難訓練にしましょう。

避難訓練で気を付けたい3つのポイント

介護施設の利用者のなかには、高齢によって体が思うように動かなかったり、障害を持っていたりと自力での避難が難しい方もいるでしょう。避難訓練をより効果的かつスムーズに実施するためには、利用者それぞれの状況に配慮することが大切です。

  • ポイント1.利用者のADLに応じた避難誘導をする
  • ポイント2.利用者に不安を与えないよう配慮する
  • ポイント3.屋外誘導は寒暖差に気を付ける

ここでは、介護施設での避難訓練において注意したいポイントを3つ解説します。

ポイント1.利用者の方のADLに応じた避難誘導をする

利用者のなかには、イスから立ち上がれない方や歩くのが極端に遅い方もいるでしょう。一方で、職員と同じように避難・誘導できる方もいるかもしれません。

大切なのは、利用者それぞれのADLに合わせた避難ルートで適切に避難することです。避難ルート一つとっても、平坦な廊下か、階段かにより、避難できる利用者やその人数も変わります。

介護施設での避難訓練では、利用者のADLに見合う誘導方法や避難ルートを想定することが大切です。

ポイント2.利用者に不安を与えないよう配慮する

利用者のなかには、耳が聞こえにくい方や視力の弱い方、認知症を患っている方もいます。避難訓練では、いつもと違う慌ただしさや騒々しさを目の当たりにして、恐怖や不安を感じるかもしれません。とくに認知症を患っている方が不穏に陥ると、うまく誘導できなくなる可能性もあります。

介護施設での避難訓練は、不安にならないよう実施することが重要です。利用者の状態によっては、そばにいて声かけや手を取るなどし、少しでも安心できるよう配慮しましょう。

ポイント3.屋外誘導は寒暖差に気を付ける

避難訓練では、室内から屋外へ避難することもよくあります。その際は気温差で利用者の体調に異変が生じないよう、注意が必要です。

避難訓練には、普段と違う状況です。無理に立ち座りをしたり走ったりして、訓練後に体調が悪化することも考えられます。寒暖差は、血圧を変動させる要因です。避難訓練に当日は、利用者の体調や様子に細心の注意を払いましょう。

しっかりと準備をし安全な避難訓練を

多くの利用者の生活を守る介護施設も、いつ災害に襲われるかわかりません。思うように歩けない方や寝たきりの方、認知症を患っている方など避難が容易でないからこそ、避難訓練は重要です。

避難訓練は、施設の利用者それぞれに異なるADLに配慮した方法やルート、誘導、タイミングを設定します。実際の訓練では、とくに認知症の方を不安にさせないよう寄り添い、声掛けなどを欠かさないことが大切です。

介護施設は他の施設に比べ、避難訓練にもより綿密で具体的な準備を必要とします。万が一に備え、より効果的で安全に実施できるようしっかり準備しましょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長