お役立ちコラム

施設での暮らしは安心できるものですが、何もしないでいるのは退屈かもしれません。認知症予防が期待される脳トレは、本人だけでなく多くの家族にも求められています。種類が多くあり、なかには職員が一緒に取り組める内容もあるため、高齢者施設でもマストと言えるでしょう。

この記事では、10種類の脳トレを紹介します。脳トレをおこなうメリットや注意点も解説するため、参考にしてください。

脳トレとは?特徴や3つのメリット

脳トレとは、脳を活性化させるトレーニングのことです。脳を活性化させ、認知機能の低下を防ぐ効果が期待できることから、多くの高齢者施設で取り入れられています。何もしなければ20代後半をピークに低下するといわれる認知機能を維持するためには、定期的なトレーニングすが必要です。

脳トレには、3つのメリットが挙げられます。

  • メリット1.認知症予防につながる
  • メリット2.コミュニケーションが活発になる
  • メリット3.ストレスを発散できる

以下で詳しく、紹介しましょう。

メリット1.認知症予防につながる

脳を刺激する脳トレは、脳の部位の1つ、前頭葉の前頭前野を活性化させます。前頭前野は記憶や学習、感情のコントロールを担う部位です。前頭前野を活性化させることで、脳の老化を遅らせる効果が期待できます。

このときの脳トレは、格別に難しい問題である必要がありません。むしろごく簡単な計算やクイズの方が、定期的に長期間続けるには適しているといえます。

脳の活動に必要な酸素や糖分は、血液によって送り届けられています。人間は年齢を重ねるごとに脳内の血流が悪化して活動が阻害され、認知機能も次第に低下するため、定期的に脳を刺激することが大切です。

メリット2.コミュニケーションが活発になる

脳トレには、計算問題や漢字クイズなど一人で黙々と取り組むものもありますが、クイズ大会のように大勢でワイワイ楽しみながらできるものもたくさんあります。おのずと会話をしてコミュニケーションを取るため、思考力や注意力、記憶力のトレーニングにぴったりです。

年齢を重ねると、人との関わりが少なくなることもあります。仕事に力を注いできた方であっても、退職するとさまざまな人間関係から遠ざるかもしれません。他者とのコミュニケーション自体が極端に減ってしまい、精神的に不安定になる場合もあるようです。

会話がはずみ、クイズに正解すれば、高揚感や達成感が得られます。次の脳トレに取り組むきっかけにもなり、脳にとってよい刺激となる習慣が生まれるでしょう。

メリット3.ストレスを発散できる

高齢になると、「思うように歩いたり走ったりできない」「うまく会話を理解できない」「周囲の状況に素早く対応できない」といった自身の変化にストレスを抱えがちです。他にも経済的な不安や一人暮らしの孤独感、加齢に対する劣等感や憤りなど、さまざまなストレスと抱えていることも多いです。

楽しみながら取り組む脳トレは、こうした高齢者のストレス発散に繋がります。問題に取り組むために集中することは、気分をリフレッシュする手助けにもなり得ます。

脳トレを実施する際の注意点3つ

いくら脳トレに効果が期待できるからといって、なんでもただ取り組めばいいというわけではありません。脳トレはあくまで高齢者が楽しんで、意欲的に取り組むことが大切です。

脳トレを続けるためには、3つの注意点があります。

  • 注意点1.さまざまな難易度を用意する
  • 注意点2.じゅうぶんな時間を設ける
  • 注意点3.プライドを傷つけないよう配慮する

以下で、詳しく解説します。

注意点1.さまざまな難易度を用意する

同じ施設の高齢者でも、状態はそれぞれ異なります。自分で問題なくトイレを使える方もいれば、ベッドから自分で起き上がれない方もいるでしょう。脳トレも、個々の状態に合わせて取り組むことが大切です。

計算問題であれば、初級者向けに一桁の数字の足し算や引き算を、上級者向けには掛け算や二桁の数字の足し算・引き算を織り交ぜた問題をと用意します。このように、複数の難易度を用意して状態に応じて使い分ける方法がオススメです。

難易度が合わず、興味ややる気を失ってしまっては、せっかくの脳トレも台無しでしょう。難易度は「少し簡単すぎるくらい」、問題数は「できるだけたくさん」がよいです。やる気になってどんどん解いていきたい方にも、しっかり対応できます。

注意点2.じゅうぶんな時間を設ける

脳トレをおこなうときは、じゅうぶんな時間を設けることをオススメします。

脳トレは、テストではありません。もちろん、実施する職員のスケジュールも大切です。脳トレが高齢者のためにあると考えれば、多少時間はかかってもしっかり取り組めるよう環境を整えることが重要でしょう。

なかには、「やる気はあるけれど時間内にできない」という方もいるかもしれません。状態的に難しくても、課題にしっかり向き合い取り組もうとすることこそが、脳トレの目的の1つです。

時間が来たからといって途中でやめてしまうと、せっかくの脳トレも楽しめません。参加する高齢者全員の状態を確認しながら進め、余裕を持って時間を調整する配慮が必要です。

注意点3.プライドを傷つけないよう配慮する

脳トレは、課題に取り組む作業です。そのためうまくできなかったり、間違ったりすることは当然のことですが、高齢者のなかには「失敗した」「恥ずかしい」「悔しい」といった感情を抱いてしまうこともあります。このようなときも職員は共感を示し、前向きな気持ちになれるよう高齢者に寄り添うことが大切です。

乗り気でなかった高齢者に参加してもらったときは、いっそうの配慮が求められます。決して子ども扱いせず、高齢者に適切に敬意を払いつつ声かけをしましょう。

計算力向上を目指す脳トレ

ここからは具体的に、目指す目的別にさまざまな脳トレを紹介します。まずは計算力向上を目指す脳トレです。

1.計算問題

計算問題は、数字を並べるだけでも作れます。しかし、イラストを使って具体的な問題にすると、さらに取り組みやすくなります。

たとえば、百円玉が2個と十円玉が4個のイラストから、合計の金額を答える問題です。この問題の答えは240円と比較的簡単ですが、硬貨が6つあるので中級者向けかもしれません。初級者向けであれば、硬貨の数を2個や3個に減らす方法もあります。

高齢者にとって、硬貨は長い間使ってきた親しみのあるものです。買い物に行ったときの出来事など、自身の思わぬエピソードが思い起こされる可能性もあります。計算をきっかけに、刺激が脳に与えられる効果的な脳トレです。

硬貨だけでなくお札も使えば、問題がさらに幅広くなります。コツは、イメージしやすいよう、お金のイラストをできるだけ丁寧に書くことです。

2.そろばんの計算問題

そろばんを使った計算問題も、脳トレとして有効です。そろばんは上の玉が下にあれば5を表し、下の玉が1を表し、上にある数だけの数字を表します。

暗算が得意な方のなかには、そろばんをイメージして計算する場合もあるそうです。そろばんをイメージすることは想像力を、どの玉をどう動かしたかを覚えておくためには記憶力を鍛える効果が期待できます。実際にそろばんを使えば指を動かす練習にもなるでしょう。

電卓をよく使っていた方であれば、たくさんの数字が並んだ紙を渡してすべてを合計する脳トレにあります。高齢者の経歴も踏まえ、課題や道具を選ぶようにしましょう。

注意力向上を目指す脳トレ

次に紹介するのは、たくさんの物の中から関連や違いを見つけ出す注意力の向上を目指す脳トレです。この種類の問題は、新聞や雑誌でもよく見かける課題の定番でもあります。単純だけに取り組み始めやすく、熱中しやすいことが特徴です。

1.仲間はずれ探し

仲間はずれ探しは、よく似たもののなかから違うものを見つけ出す課題です。たとえば、どれも青色で大きさも形も同じ横向きの自動車が6台並んでいます。まずは「何が違うのか」を見つけることから始めます。「後輪が他の5台とは違って白色」という正解が設定可能です。

間違い探しは問題をイラストにするとわかりやすいですが、漢字を使うという方法もあります。たとえば5✕5(計25)の枠のうち24の枠には「犬」と書いてありますが、1つだけ「太」と書いてあるという課題です。

この課題では、ヒントで正解を促すこともできます。最初はヒントを出さずに取り組んでもらい、全体的に苦戦しているようならヒントを出すと効果的です。複数で取り組むと、自然とお互いにコミュニケーションが生まれやすいという特徴もあります。

2.色塗りパズル

色塗りパズルは、絵の中のさまざまな枠に数字が振られている絵に、数字で指定された色を塗っていくことでイラストが完成するパズルです。色を塗る前の状態だと、線は書かれていますが何が描かれているのかわかりません。そのため「なんの絵なのか知りたい」といった気持ちで作業に取り組みやすい脳トレといえます。

幾何学模様をはじめ、動物や植物、風景、隠れ文字などレベルもバリエーション豊富です。一気に終わらせるのではなく、自分のペースで1つずつじっくり取り組むと、意欲を長く保てるでしょう。色も指定されているため、色選びのセンスも必要ありません。

多くのパズルを集めた本が、出版されています。上手に利用して「今日はどのパズルにしましょうか」と選んでもらえることもポイントです。

記憶力向上を目指す脳トレ

若くても、「記憶力に自信がない」という方は多いかもしれません。記憶力向上のための脳トレは、高齢者だけでなくすべての方にとってトレーニングになります。職員と高齢者と協働して、真剣に取り組んでみるのもオススメです。

1.都道府県当てクイズ

都道府県当てクイズは、それぞれの都道府県の特徴などをヒントにして、該当する都道府県名を当てる課題です。参加者はヒントを頼りに自分の記憶をたどり、答えを探します。これは頭の体操であると同時に、回想法による認知機能への刺激になるため、脳へに適度な刺激を与えます。

始めるときに必要なのは、正解となる都道府県にまつわるヒントです。誰でも知っている観光地や特産物、人物の名前などを3〜5個程度を用意します。職員はこれらを1つずつ時間をおいて伝え、高齢者はより少ないヒントで正解できたら高得点が獲得できます。

進め方のコツは、誰もが答えにたどり着けるようヒントを用意することです。ヒントは、わかりづらい順番で出すと盛り上がるでしょう。グループ戦にすれば、コミュニケーションが活発にできる点もメリットです。

2.早口言葉

早口言葉は、わざと言いにくい言葉をより速く間違えずに言えるかどうかを競う問題です。アナウンサーなど言葉にまつわる職業の方は、発声の練習に用いることもあります。高齢者が練習すると、脳の活性化によって認知症の予防の効果が期待できるのです。

声に出すことは、表情筋など顔のさまざまな筋肉を鍛え、呼吸が大切なことから肺活量を上げるため、身体機能の向上にも効果があります。施設でのレクリエーションに用いるときも、とくに道具が必要ではないため、手軽に取り入れることが可能です。

最初は簡単な言葉を選び、ウォーミングアップから始めるのをオススメします。

にわにはにわにわとりがいました(庭には2羽鶏がいました)
となりのきゃくはよくかきくうきゃくだ(隣の客はよく柿食う客だ)
つくるつるくさつるすつゆくさ(作るつる草吊るすつゆ草) など

早口言葉で口を鍛えた後は、しっかりと口腔ケアをしましょう。口腔ケアは、口の中の汚れを取り除くだけでなく、舌や頬の筋肉や飲み込む力を維持するためにも有効です。自然に促せるよう、早口言葉を楽しみましょう。

3.ことわざクイズ

うろ覚えだったり一部誤って覚えていることも多いことわざは、クイズにもしやすい題材です。カッコの中に動物の名前が入ることわざクイズには、次のようなものがあります。

(鳩)が豆鉄砲を食ったよう
(猫)にかつお節
取らぬ(狸)の皮算用 など

答えが動物に限定されているため比較的考えやすく、思い出そうとする脳の活動を活発にします。答えがわかると「そうだ!」という達成感が得やすく、次の問題にも意欲的になりやすい点がメリットです。

年齢を重ねると、経験からことわざの意味をしみじみと感じることもあるでしょう。

四字熟語のうち隠された一文字を当てるクイズや、「白粉(おしろい)」や「欠伸(あくび)」などの難読漢字の読み方クイズなど、言葉を用いる問題はクイズは多くあります。難易度に注意して、誰もが楽しめるような課題をたくさん用意しましょう。

思考力、判断力向上を目指す脳トレ

与えられた言葉やヒントを頼りに答えを探す脳トレには、思考力や判断力を鍛える効果が期待できます。さらに答えを書いたり言ったりすると、指・手・口・のどなどを鍛えることにもなるため、一石二鳥です。

1.クロスワード

クロスワードは、ヒントを頼りにマス目に沿って上から下、または左から右に読み、決まった文字数の言葉を書き入れていく脳トレです。思考力や推理力、連想力を鍛えられます。

番号で設けられたヒントと、別の問題で解答した言葉の一部と文字数から当てはまる答えを見つけ出します。

バスの〇〇〇券=三文字
三文字の最初の文字は、てんらんかいの最初の文字である「て」

「てではじまる三文字の言葉」「て〇〇券」など、いくつかの異なる視点で考えるのがコツです。参加者の状況に応じてヒントを出すなど、自身の力で答えを出せるようしっかり支援しましょう。

四字熟語や慣用句などを使った漢字クロスワードも、オススメの脳トレです。

2.しりとり

しりとりには、これという「正解」がありません。言い換えれば、語彙の多さが問われる課題です。語彙は年齢を重ねるほど増えていき、ピークは71歳とも言われています。若い世代と高齢者では、あまり差がみられないかもしれません。

小さい子どもがするような話し言葉でのしりとりでもよいですが、言葉とイラストを合わせてたどる迷路を印刷してペンでたどってもらうという脳トレもできます。他には「しりとり」をスタートにして、終わりが「かざん」になるように言葉を並べる問題もオススメです。

なかには、うまく言葉が出てこない高齢者もいるでしょう。そのようなときは、できる限り待つことも必要です。言葉が出るよう声かけし、一緒に探り当てるよう寄り添うことが求められます。

3.なぞなぞ

なぞなぞと解こうとするとき、人間は普段と違う脳の使い方をします。問題をよく聞くことやヒントを探って答えを探すこと、想像することが必要です。答えが出るまで悩むほど、解いたときの満足感や達成感は心地よく、ストレス解消にもなります。

なぞなぞは、いくらでも問題を作れるのがメリットです。ただしテーマが無いと答えにたどり着くのは難しいため、お正月や七夕などの季節や行事、人気のあるスポーツなどテーマを絞ることをオススメします。

脳トレを活用し認知症予防に役立てよう

人間の脳は、筋肉と同じように鍛えられます。鍛えるほどに機能が高まり衰えづらくなるため、一定のレベルを維持したいのであれば、普段から鍛えることを習慣づけることが大切です。脳トレの効果は、高齢者だけでなく若年層にも期待できます。

施設に入所している高齢者の状態は一人ひとり異なるため、それぞれにあった脳トレの種類や難易度に配慮することが必要です。難しすぎてもやる気を失ってしまい、効果的な脳トレの条件の1つ「継続」ができなくなります。簡単すぎるくらいの脳トレに、定期的・継続的に取り組むのがオススメです。

脳トレは、鍛えたい脳の機能ごとに使い分ける必要もあります。高齢者が楽しみながら意欲的に取り組めるようなテーマを選び、それぞれの状態を見てタイミングよく提供できるよう、普段から準備しておきましょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長