お役立ちコラム

高齢者の増加は世界各国の課題ですが、それを逆手にとったエイジテックの市場は拡大傾向にあります。ひと口にエイジテックといっても、関連する製品やサービスは多種多様です。

この記事では、エイジテックの概要と事例を含めた現状、市場規模と将来の展望を解説します。

エイジテックとは何か?

エイジテックは、高齢者に提供される技術です。以前の高齢者は、折りたたみ式の携帯電話でさえ苦手として敬遠することもよくありました。しかし現代の高齢者は、仕事やプライベートでデジタル慣れしてきたため、比較的ハードルは低いとされています。

ここでは、エイジテックの概要について解説します。

高齢者向けのテクノロジーサービスのこと

エイジテック(Agetech)とは、年齢(Age)とテクノロジー(Technology)が掛け合わされてできた造語です。この場合のAgeは、高齢者の意味合いで用いられ、高齢者の健康をサポートしたり、日常生活で抱える様々な課題を解決したりするテクノロジーや概念を指します。

例えば、思うように歩けない高齢者を考えてみましょう。出かけるための移動にも時間がかかる上、途中で疲れて歩けなくなってしまうこともあるでしょう。また室内でも、若いころは何でもなかった室内灯のオンオフや来客の応対でさえ、腰や肩を傷めたり転倒したりと危険です。

しかしいくら危険でも、1人で暮らしていればしないわけにいきません。そんなときテクノロジーを知っていれば「声で電灯をオンオフできたらいいのに」「玄関の様子をスマートフォンに映せたらいいのに」と思うはずです。

これらは、エイジテックの一例にすぎません。高齢者の生 活をサポートするエイジテックは、今やあらゆる分野に広がり、中にはそうと気づかずにすでに利用しているものもあるまのしれません。エイジテックは、今後も増加する高齢者の生活のサポートにテクノロジーを活用する考え方・技術です。

エイジテックのメリット

エイジテックのメリットの一つは、高齢者の生活の質が上がることです。例えば「必要以上に移動する必要がなくなる」「安全に生活できる」当たり前のことのおかげで、高齢者はさまざまな面倒から解放されて自由に暮らすことができます。ただでさえケガや病気などで食事や体の動かし方、服薬など制限の多い生活です。その他の制限が少ないほど、快適に暮らせるでしょう。

もう一つのメリットは、介護の必要な高齢者に対する介護者不足が改善される可能性があることです。高齢者が増えれば、介護を必要とする方も増えます。しかし介護される側が増えても、介護する側は十分に確保できていないのが現状です。

介護が必要とされているにもかかわらず、介護施設に入居することができず、やむを得ず家族が介護を担っているケースがよく聞かれます。他に家族が介護できないため、未成年者が主に介護を担う「ヤングケアラー」も大きな問題です。

エイジテックですべてを解消することはできなくても、一部を改善できれば介護者の負担は減らせます。ワンオペ介護など、介護者が抱える問題も深刻です。

エイジテックは、介護される側と介護する側の両方にメリットがあります。「これまであったテクノロジーを応用する」「新しく開発する」など製品やサービスはさまざまですが、どれも高齢者を含めた社会を大きく改善できる可能性がある技術と言えるでしょう。

エイジテックは4種類に分けられる

エイジテックの活用範囲は、実に幅広いものです。そのためエイジテックの話題では、次のような4つの分類が用いられます。

  • 種類1.高齢者自身で利用するもの
  • 種類2.企業や行政が高齢者に対して利用するもの
  • 種類3.高齢者に対して個人で利用するもの
  • 種類4.将来の高齢者が利用するもの

エイジテックを正しく理解するには、その用途も正しく把握することが大切です。ここではエイジテックの分類による4種類について、1つずつ解説します。

種類1.高齢者自身で利用するもの

おそらくエイジテックと聞いて想像しやすいのが、高齢者自身で利用する次のようなサービスでしょう。

  • スマートフォンやタブレット
  • 健康管理デバイス
  • 歩行サポート手すり
  • 食事や排泄の管理アプリ
  • 認知症患者のリハビリテーションアプリ
  • 乗り合いサービス など

どれも高齢者が日常生活の中で抱える不便さや不安、危険を改善・解消するサービスです。直接高齢者が利用するため、わかりやすく操作しやすいことが求められます。

これ以外にも、応用できるテクノロジーはあるかもしれません。今後も新しいサービスの登場が大いに期待できます。

種類2.企業や行政が高齢者に対して利用するもの

高齢者には快適に暮らす権利があります。そのために欠かせない介護や医療サービスとして提供されるのが、次のようなエイジテックです。

〈介護サービスのエイジテックの例〉

  • 遠隔カメラによる見守りシステム
  • 徘徊感知センサー
  • 介護支援ロボット
  • AIによる認知サポートシステム など

〈医療サービスのエイジテックの例〉

  • 遠隔地域のオンライン診療
  • AIによる診断支援システム
  • 電子カルテ
  • 電子版お薬手帳 など

特徴的なのは、遠隔地を通信でつなぐDXサービスです。今も依然として医師や看護師、介護士不足の問題は残っています。遠隔サービスは、おそらく今後も増えていくでしょう。

種類3.高齢者に対して個人で利用するもの

高齢者自身ではなく、家族など高齢者の周囲の個人が利用するエイジテックもあります。

  • ビデオチャット
  • ホームアシスタントシステム:音声で家電などを操作できるデバイスやシステム
  • 高齢者向けホームステイマッチングサービス
  • コミュニケーション支援のためのSNSサービス
  • ソーシャルギフト など

個人で利用するエイジテックは、高齢者が安心したり喜んだりするためのコミュニケーションに関するサービスが主です。デジタルサービスやコミュニケーションサービスは、増え続けています。エイジテックにも、いつ新たなサービスや新たなジャンルが生まれても不思議ではありません。

種類4.将来の高齢者が利用するもの

将来高齢者になるはずの若い世代も、今の高齢者の状況を見ています。そのため古い世代より健康や食生活への興味は強く、高齢者になるまで自分の体をしっかり維持・管理するサービスが人気です。

  • 健康管理アプリ
  • 健康管理のためのウェアラブルデバイス
  • 遺伝子検査 など

現代の若い世代は、生まれてすぐからデジタル機器に慣れ親しんでいます。そのためデジタル化された健康管理や、自分に必要なデジタルツールも適用しやすいのが特徴です。開発する側も同世代にちかいため、かなり的確な製品やサービスが生まれやすいと言えます。

エイジテックの市場規模

エイジテックは、高齢化とテクノロジーを結び付けたことから生まれました。高齢化の問題は、わが国だけでなく世界中の国々が抱えています。そのため、エイジテックが注目されているのはわが国を含めた世界全体です。

ここでは、エイジテックが注目される背景とその後の海外およびわが国におけるエイジテックの現状を解説します。

エイジテックが注目される背景

エイジテックの市場規模は、2025年までに2.7兆ドルにまで拡大すると予想されています。1ドル135円で換算すると実に360兆円以上、毎年20%以上の成長が見込まれる市場です。

その理由は、大きく分けて次の2つにまとめられます。

  • 高齢人口の増加に伴う医療・介護コストの増大
  • 少子高齢化による介護の担い手の不足

とくに医療コストの増大は、高齢化が進むあらゆる国家が大きな問題として抱えています。中でもわが国のように、公的医療保険制度のある国はより深刻です。現役世代が抱える負担は増加し続けており、一日も早い改善が求められています。

この問題の解決方法の1つが、エイジテックです。各国が知恵を絞り、競って問題の解決に有効なエイジテックの開発を進めています。

海外におけるエイジテックの現状

2020年時点での先進各国の高齢化率は、次のとおりです。

高齢化率
日本 28.6%
スウェーデン 20.3%
ドイツ 21.7%
フランス 20.8%
イギリス 18.7%
アメリカ合衆国 16.6%

この流れは、比較的高齢化率の低かったアジア諸国にも表れ始めています。アジア諸国の高齢化率は、中国(12.0%)・シンガポール(13.4%)・インドネシア(6.3%)です(2020年現在)。欧米各国に比べ高くはないものの、2060年はその数倍にのぼると予想されています。

企業活動が盛んなアメリカにおけるエイジテックは、すでに一大産業となりつつあります。エイジテックはアイデア次第でいくらでも新たなサービスが始められるとあって、多くのベンチャーキャピタルやファンドがこぞって投資している現状です。

参考:内閣府 令和4年版高齢社会白書(全体版)

日本国内におけるエイジテックの現状

日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は29.1%です。しかしその人々の生活を支える15~64歳の現役世代は減少しており、2015年時点で現役世代2.3人で1人の高齢者を、2065年予想では1.3人で支えることになるとされています。

現役世代の減少によってより深刻になるのは、高齢者を介護する介護者の減少も同様です。このまま介護される側が増え、介護する側は減る、さらに支える現役世代も減ってしまえばいずれ介護のしくみは崩壊しかねません。先進国の中でも突出して高齢化率の高いわが国は、一層のエイジテックの実用化が急務といえます。

参考:総務省統計局1.高齢者人口

エイジテックの将来の展望

現在、エイジテックが注目されるのは、次のような要因があるためです。

  1. 試算による高齢者市場の、約360兆円を超える経済規模
  2. 成熟した起業家によるエイジテックスタートアップの増加
  3. 世界的なテクノロジー企業によるエイジテックへの参入
  4. センサーやAI、ロボットなどテクノロジーの進化
  5. 新型コロナウイルスのパンデミックによる環境面での追い風

どの要因も止めることはできない、ごく自然な流れです。そのため世界的なテクノロジー企業は、次のようなエイジテックにまつわる行動をすでに開始しています。

  • Apple:シンガポール政府とともにAppleWatchを用いた健康プログラムを提供
  • Google:Google Health Studiesをリリース 複数のヘルスケアスタートアップへの投資
  • Amazon:音声アシスタントAlexaを用いた高齢者遠隔介護サポートサービスを開始

その他のスタートアップによるエイジテック関連の資金調達も、2021年は前年を大幅に超え、過去最高を記録しました。その大半は依然としてアメリカに拠点を置く企業ですが、今後は世界のさまざまな国に登場することでしょう。

エイジテック3つの具体例

エイジテックの製品やサービスはまさにアイデア次第であり、ジャンルも実に多岐にわたります。ここでは、3種類のサービスを取り上げました。

  • 具体例1.移動の手間や費用がかからないオンライン診療
  • 具体例2.音声でコントロールするデバイス
  • 具体例3.高齢者の見守りシステムで介護者をサポート

どれも、多くの高齢者が利用できる製品やサービスです。これらはあくまで例であり、エイジテックのすべてではありません。これまで思いもしなかったエイジテックが、今後登場する可能性もあります。

具体例1.移動の手間や費用がかからないオンライン診療

一部の高齢者は、持病のため病院の診療を受けなくてはならないのに、移動の費用や交通手段の少なさから受診できなくなっています。別の病気やケガが原因というケースも考えられるでしょう。この問題は、移動の不都合によって引き起こされています。

オンライン診療では、パソコン・タブレット・スマートフォンなどを使ったビデオ通話が用いられます。電話による声だけによる診療では、十分とはいえません。顔色や患部の画像を見れば、医師もより適切な診断ができます。

健康管理に必要な機器(体温計・血圧計など)のデータをインターネット経由で送信するサービスを利用すれば、より正確な診断も可能です。

オンライン診療は、ある程度確立されたしくみです。利用には、インターネット接続と通信機器(パソコン・タブレット・スマートフォンなど)が必要です。高齢者自身でも簡単に使いこなせることが条件であり、導入にはネット環境の整備からスタートする必要があります。

具体例2.音声でコントロールするデバイス

音声でコントロールできるデバイスとしては、Apple社の製品に搭載されている「Sir」iや、Google社が提供する「AndroidOS」の音声サービスが有名です。しかし利用にはボタンを押すなどの操作が必要なデバイスもあり、音声だけでコントロールできないものもあります。

単独でコントロールできるデバイスの1つ、Amazon社が提供している「Alexa(アレクサ)」は単独でシーリングライトやエアコン、オーディオシステムなどを操作できるモデルもある製品です。モデル共通で、単独で利用できるだけでも次のようなサービスがあります。

  • 天気や時刻、ニュースなどがわかる
  • 音声でアラームやタイマーがセットできる
  • (別サービスの併用が必要)音声で好みの音楽を再生してくれる
  • Amazonサービスに関連するお知らせを通知してくれる など

モデルによっては単独で、テレビやシーリングライトなどのリモコンとして使うこともできます。音声で「テレビをつけて」というだけでリモコンを操作せずにテレビが映る上、音量の上げ下げも音声でできるので便利です。

同様の音声コントロールデバイスは、Apple社やGoogle社も提供していますが、機能は少しずつ異なります。導入する際は何ができるかを確かめることが大切です。

具体例3.高齢者の見守りシステムで介護者をサポート

認知症を患う高齢者の介護は、目を離すことができません。歩行など日常生活に不安がないほど自由に行動するため、昼間に限らず夜中でもふらりと外出しようとしたり、状態によってはハサミなどを口に入れたり、熱いお湯の入ったやかんを素手でさわったりすることも考えられます。

しかし介護者が、常につきっきりというわけにもいきません。やむを得ない事情で、目の届かないところに行くことはあるでしょう。そんなときに役立つのが、高齢者の見守りシステムです。見守りシステムには、次のようなものがあります。

  • カメラを使った常時見守りシステム:Webカメラを使って居室や共用スペースなどの場所を別室のモニターなどに映す
  • ベッドから出たことがわかる見守りセンサー:ベッドから降りるとセンサーが感知し、アラーム音で知らせる

このエイジテックは、介護する側が使用するサービスです。どこを見守るか、誰がどのように見守るかといったことは介護者が決める必要があります。

エイジテックの今後の課題3つ

高齢者だけでなく介護者や周囲の人々にとっていくつもメリットがあるエイジテックですが、まだまだ課題も残されています。ここで解説する3つは、解決できないものではなく将来の改善が期待されるものばかりです。

  • 課題1.高齢者が使いこなせるかどうか
  • 課題2.サービス提供者の理解
  • 課題3.導入時のコスト

当面の導入と、将来への備えとしてしっかり把握しておきましょう。

課題1.高齢者が使いこなせるかどうか

エイジテックは、あると安全・安心で便利な製品やサービスばかりです。ある程度デジタル機器に慣れていないと操作が難しく、不慣れな高齢者には使いこなせないものも一部あります。せっかく本人のため導入しても、使いこなせなければムダになるだけです。

サービス側の企業も、可能な限り使いやすくデザイン・設計しているはずですが、その通りに使えるとは限りません。そういった製品やサービスには、改善が必要です。使い慣れない高齢者にとっても、エイジテックは慣れ親しみやすく頼れる存在でなくてはなりません。

課題2.介護する側の理解

在宅介護においては、介護者の高齢化が進んでいます。本人は使いこなしているが、介護者がまったく使えない、または無関心な状態で、トラブルにすぐ対応できないというのも問題です。

エイジテックの製品・サービスのサポートを受けられるなら、積極的に活用しましょう。使い方やしくみ、トラブル発生時の連絡先や伝える内容など、知っておくことはムダにはなりません。まずはエイジテックを担当外とせず、関心を持つことから始めることをおすすめします。

課題3.導入時のコスト

一般的にテクノロジーが登場した当時は、とくにコストが高いものです。これはエイジテックも同様で、新しいサービスや他にはないサービスほど導入にはコストがかかります。中には導入したくても、コストがネックとなって断念することもあるようです。

施設ならまだしも、在宅介護のための個人導入の場合は、むしろコストの解決が鍵になるかもしれません。介護環境の改善のために「介護者の負担を減らしたい」「介護が必要な高齢者のために導入したい」などの場合は、まずはコストを把握して利用できる範囲で探すことをおすすめします。

エイジテックで介護はより便利でかんたんに

本記事では、エイジテックに関するさまざまな情報を解説してきました。エイジテックは、高齢者を対象としてあらゆるテクノロジーを活用した製品・サービスです。世界的に進行する高齢化によって今後も市場は拡大し、製品・サービスの種類も増えるでしょう。

エイジテックが高齢者のためのサービスである以上、高齢者を含めた使う側にとって使いやすいことが大切です。導入コストが高い場合もあるため、まずは予算の範囲内で利用できるものを探すことをおすすめします。

エイジテックもその他の技術と同様、状況に適したものを選ぶことから始まります。やみくもに導入するのではなく主役である高齢者にとって適したものを選ぶという基本に忠実に検討したいものです。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長