お役立ちコラム

介護における「口腔ケア」は、口内の清潔を保つだけでなく、肺炎予防や嚥下機能の維持向上といった重要な役割を担っています。こちらの記事では、口腔ケアの正しい手順をくわしく解説していきます。身体状況に応じたケア用品やポイントなど、あわせて参考にしてください。

目次

高齢者の口腔内トラブルとは?

高齢者の口腔内では、以下のような4つのトラブルが起こりやすいと考えられます。

  • 1.歯周病
  • 2.食べ物の残渣(ざんさ)
  • 3.歯の根元のう蝕(うしょく)
  • 4.入れ歯の汚れ

口腔内のトラブルを放置しておくと、虫歯になるだけでなく、心疾患や糖尿病などにつながる恐れがあります。食欲低下や口臭の要因にもなるため、これらのトラブルをふまえた適切な口腔ケアを心がけましょう。

トラブル1.歯周病

歯周病とは、歯垢の中の細菌が増殖し歯肉に炎症を引き起こす病気のことです。初期症状はほとんどなく、中高年の8割以上が罹患しているといわれています。歯周病は、初期段階ではほとんど症状がありませんがゆっくりと進行し、やがて歯肉の腫れや出血が見られるようになります。そのまま症状が進行すると歯が抜け落ちたり、あごの骨まで溶かしてしまうのが歯周病の恐ろしさです。

また、歯周病は、糖尿病や骨粗鬆症のリスクも高めます。そして誤嚥により細菌が気管へ入り込むことで、誤嚥性肺炎を引き起こす恐れも。一見関係なさそうな虚血性心疾患や脳梗塞の要因になることもあるため、高齢者にとって予防が重要視される口腔トラブルなのです。

トラブル2.食べ物の残渣(ざんさ)

残渣とは、うまく飲み込めずに口腔内に残った食べかすのことです。食べ物を咀嚼(そしゃく)したり、飲み込んだりする力が弱まると、口腔内に残渣が残りやすくなります。麻痺などによって口内の感覚が弱まり、残渣に気付かないケースもあるでしょう。

食べ物の残渣は、虫歯や歯周病の要因となります。残渣に気付かないまま横になると、誤嚥につながる恐れもあるのです。そのため、食後は口腔ケアによりていねいに残渣を取り除く必要があります。

トラブル3.歯の根元のう蝕(うしょく)

う蝕とは、虫歯菌の酸によって歯が溶ける病気のこと。高齢になると歯茎がやせ、歯の根元がう蝕しやすくなります。う蝕が進行し歯に穴が開くと、虫歯へとつながるのです。そのため、口腔ケア時は歯の根元がう蝕していないか確認することも大切になります。

トラブル4.入れ歯の汚れ

歯と同様に、入れ歯にも汚れは付着します。入れ歯の汚れをそのままにしておくと、口内炎や歯周病、虫歯を引き起こします。口腔内の細菌が食べ物と一緒に気管に運ばれると、肺炎を引き起こす恐れもあるため注意しましょう。

要介護者に口腔ケアが求められる理由と現状

口腔ケアは、介護現場で欠かすことのできないケアです。自分で歯を磨いたり入れ歯の手入れをしたりするのが難しい方には、介助を行う必要があります。介護保険制度においても、近年は口腔機能向上加算が拡充されたり新たな介護資格が誕生したりと、介護における口腔ケアの重要性はさらに高まりを見せています。

要介護者の約6割は口腔ケアが必要

2019年度(令和元年)の調査によると、全国の介護保険施設入所者のうち61.8%が口腔衛生管理が必要な状態だったといわれています。さらに、適切な口腔衛生管理を行わなかった場合の体重減少リスクは、行った場合の2.2倍高くなっているのです。肺炎発症リスクに関しては3.9倍とさらに高くなっており、高齢者における口腔ケアの重要性を示す結果となっています。

2021年度から口腔機能向上加算を拡充

口腔ケアの重要性を鑑み、介護保険制度においても2018年(平成30年)に「口腔衛生管理加算」が新設されました。結果、嚥下機能の改善や肺炎予防の効果がの証明が得られ、2021年(令和3年)より加算拡充されたのです。2021年の拡充は通所施設の口腔ケアに関する加算を中心に、超高齢化社会における介護予防を重視した内容となっています。

新しい介護資格「介護口腔ケア推進士」

口腔ケアが重要視される流れを受け、介護業界には新たな資格も誕生しています。「介護口腔ケア推進士」は、口腔ケアに関する正しい知識を身につけられる介護資格です。一般社団法人総合健康支援推進協会の認定する資格であり、資格取得後は認定証が発行されます。

受験にあたり、介護の実務経験や学歴、年齢は問われません。そのため、これから介護職を始めたいという方や、家族を介護する方にも適した資格であると考えられます。

より実践に役立つ知識を身につけたいという方には、上級資格である「介護口腔ケア推進士上級」もおすすめです。介護現場のさまざまな症例に応じた口腔ケアスキルを身につけることができます。

【参考】厚生労働省「令和3年度介護報酬改定に向けて」

「器質的」「機能的」口腔ケアの内容と目的

高齢者の口腔ケアは、2種類に分類されます。

  • 1.器質的口腔ケア
  • 2.機能的口腔ケア

それぞれの内容や目的をふまえ、実践に活かしていきましょう。

口腔ケア1.口腔内を清潔に「器質的口腔ケア」

器質的口腔ケアは、口腔内を清潔に保つことを目的としたものです。食後の歯みがきのほか、入れ歯や舌の汚れを落とすことも、器質的口腔ケアにあたります。虫歯予防だけでなく、口内の雑菌が引き起こす誤嚥性肺炎の予防も期待されるものです。

また、抵抗力の弱い高齢者は歯周病や口内炎などにかかるリスクも高まっています。高齢者のトータル的な健康を維持するためにも、毎日の器質的口腔ケアは重要な役割を担っているのです。

口腔ケア2.口腔内のリハビリ「機能的口腔ケア」

機能的口腔ケアには、「口内のリハビリ」という大きな目的があります。加齢や疾病により飲み込む力(嚥下)が弱まると、食べ物が気管に入り込む恐れが大きくなります。噛んだり飲んだりといった咀嚼や嚥下の能力を維持向上させるためにも、日々の機能的口腔ケアが必要といえるでしょう。

具体的なケアには、口腔体操や唾液腺マッサージが挙げられます。口を大きく開けたりすぼませたりする口腔体操は、介護施設の多くが食前に実施するものです。口の内側や外側から唾液腺を刺激するマッサージは、食前だけでなく歯みがきを兼ねて行うこともあります。

口腔ケアで得られる5つのメリット

高齢者介護に必須の口腔ケアには、以下のような5つのメリットがあります。

  • 1.栄養状態が改善する
  • 2.認知症予防に効果的
  • 3.食べる楽しみを取り戻せる
  • 4.歩行の安定につながる
  • 5.肺炎リスクを軽減できる

それぞれのメリットを正しく理解することで、より効果的なケアを実施できます。

メリット1.栄養状態が改善する

口腔内が良い状態に保たれていると、食事もより摂取しやすくなります。結果的に食事量が増加し、栄養状態の改善へとつながるのです。栄養状態の悪化は、体重減少や体調不良、床ずれの要因にもなり得ます。栄養状態が改善されれば、免疫力もアップし要介護状態の悪化を予防できるでしょう。

メリット2.認知症予防に効果的

多くの歯が残存しない人は、20本以上歯が残っている人に比べ、認知症リスクは1.9倍高まるといわれています。口腔内の状態が悪い人の多くはかかりつけの歯科医がなく、咀嚼力の低さとあわせて認知症の発症リスクを高める要因となっています。

リスクが高まる理由として考えられているのが、歯周病の炎症が脳に及ぼす影響や咀嚼不足による認知機能の低下ですが、他に口腔機能が向上すると言葉も発しやすくなるということがあります。人とのコミュニケーションが脳への刺激となり、認知機能の低下を予防するとも考えられるでしょう。

メリット3.食べる楽しみを取り戻せる

口腔機能が改善されれば、食べる楽しみを取り戻すことができます。自分に合った入れ歯を装着し、硬い食べ物を咀嚼できるようになるケースもあるでしょう。「食べる」という行為は、生きる上で欠かせないものです。季節に応じた行事食は目でも楽しく、家族や仲間との団欒も生み出します。高齢者の心身の健康へとつながることは、口腔ケアの大きなメリットだといえるでしょう。

メリット4.歩行の安定につながる

人間の二足歩行には、歯の噛み合わせが大きく影響しています。4本足の動物と異なり、2本足で立つ人間は主に頭部と腰でバランスを保っています。噛み合わせが悪いと顎の位置がずれ、全体のバランスが崩れてしまうのです。虫歯治療や入れ歯で噛み合わせが整えば歩行も安定し、高齢者の転倒リスクを防ぐこともできます。

メリット5.肺炎リスクを軽減できる

厚生労働省の調査によると、口腔衛生管理が必要であるにも関わらずケアを行わなかった場合、肺炎の発症率は3.9倍に高まるといわれています。65歳以上の肺炎による死亡率は96%と非常に高く、介護現場でも気を付けなくてはいけない問題です。

前述したように、口腔ケアには誤嚥性肺炎を防ぐ効果があります。日々適切なケアを行うことが肺炎予防につながるのです。

要チェック!こんなときには歯科受診

高齢者の口腔に以下のような症状を見つけた時には、歯科受診が必要です。ポイントごとに3つに分けて解説します。

  • 1.虫歯
  • 2.歯周病
  • 3.入れ歯

ご家族やケアマネジャー、医療機関と連携が図れるよう、チェックポイントをおさえておきましょう。

チェックポイント1.虫歯

口腔ケアをする際は、歯に穴が開いていないか確認しましょう。歯の付け根が黒くなっているときにも虫歯が疑われます。本人が歯痛を訴える場合も、歯科受診が必要です。

チェックポイント2.歯周病

歯周病は、歯だけでなく歯茎に症状が現れます。歯肉がぶよぶよと柔らかくなり、赤く腫れている時は歯周病を疑いましょう。軽く歯ブラシを当てただけでも出血した、歯がグラグラしたりするといった症状も、受診が必要な状態です。

チェックポイント3.入れ歯

入れ歯が合わなくなると、歯肉に傷ができたり痛みが出たりします。上あごの入れ歯が簡単にはずれ、落ちてしまうこともあるでしょう。バネのかかる歯が欠けていないか確認することも大切です。

口腔ケアの手順とポイント

あらかじめ手順とポイントをふまえておけば、よりスムーズにケアを行うことができます。高齢者に負担をかけないためにも、一連の流れをおさえておきましょう。

手順1.口腔ケア用品を準備する

すぐに手に取れる場所に、必要な口腔ケア用品を準備します。基本となるのは、歯ブラシ・コップ・タオルなどです。感染予防のため、使い捨て手袋も用意するとよいでしょう。

必要な物品を準備したら、ていねいに声かけをし同意を得たうえでケアを始めます。車いすやベッド上にいる方の場合は、負担のかからない姿勢を保てるように調整しましょう。

手順2.うがいをする

口の中の残渣物を取り除くためにうがいをします。左右の頬を膨らませ、しっかりとゆすいでもらいましょう。口を閉じて頬を動かすうがいは、機能的口腔ケアとしての役割も持っています。

手順3.入れ歯を取り外し清掃する

上下とも総入れ歯を入れているときには、下の入れ歯から取り外します。上の入れ歯は、あごと入れ歯の間に空気を入れると外しやすくなります。部分入れ歯の場合は、左右のバネを同時に外すように心がけましょう。小さな入れ歯は誤って飲み込んでしまわないよう、注意を払うことが大切です。

入れ歯は洗面器などにに張った水につけ、流水をあてながら歯ブラシで汚れを落としていきます。入れ歯が変形してしまうため、熱湯を使うのは厳禁。汚れやすい歯の付け根や入れ歯の縁や裏側、バネの部分をていねいに洗浄しましょう。

手順4.歯と舌を清掃する

歯ブラシで歯を磨くときには、ゴシゴシと力を入れすぎないことがポイントです。歯ブラシの毛先を歯の面にまっすぐあて、軽い力で小刻みに動かしましょう。歯ブラシを持たない方の手はあごを固定し、両手で行うこともポイントです。唇や頬に歯ブラシがあたらないように、気を付けながら磨いていきます。

舌には舌苔(ぜったい)と呼ばれる汚れが付着するため、舌専用のブラシや歯ブラシなどでやさしくこすり取りましょう。

手順5.歯ブラシでマッサージする

歯ブラシの背の部分を使い、頬の内側をやさしくマッサージします。内側から外へ押し広げるように、上下に3回ほど動かしましょう。

手順6.うがいをする

うがいを数回繰り返し、口の中をしっかりとすすぎます。

手順7.入れ歯を装着する

総入れ歯の場合は、下の入れ歯のあとに上を入れます。上の総入れ歯は、中央部を指で押し上げるようにしてはめるのがポイントです。

口腔ケア用品の種類と選び方

口腔ケア用品には、歯を磨く以外にも、舌や上あごをきれいにするものや、口腔内を保湿するものがあります。それぞれの特徴を理解し、口腔内や身体状況に応じた物品を選びましょう。

歯ブラシ(歯間ブラシ)

高齢者の口は大きく開かないこともあるため、歯ブラシはヘッドの小さなものを選ぶのがおすすめです。歯肉の炎症がみられる場合は、毛足のやわらかいタイプを選びましょう。毛先が広がってくる時期が交換の目安になります。

歯の隙間を清掃する際は、歯間ブラシを使います。歯間ブラシは、隙間の広さに応じたサイズを選ぶことがポイントです。サイズの合わないものを無理やり使うと、歯肉を痛めてしまうため注意しましょう。

球形ブラシ

球形ブラシは、痰や唾液を絡めとるためのブラシです。寝たきりの状態が長く、胃ろうで経口摂取がない方のケアに適しています。

球形ブラシは一度水でぬらし、粘膜にブラシを軽く押し当てながら上下左右に動かすのがポイントです。口の奥に痰や唾液が絡まっているときには、巻き付けるように奥から手前へと動かしましょう。

舌ブラシ

舌ブラシは、舌についた舌苔を取り除くための道具です。中央部は奥から手前、端は中から外へと動かします。舌は傷つきやすいため、力を入れすぎないように気をつけましょう。

スポンジブラシ

歯や粘膜の汚れをふき取るための、使い捨てのケア用品です。うがいができなかったり、むせやすかったりする方に適しています。汚れや痰をふき取るだけでなく、保湿剤を塗布するときにも使用できます。

口腔ケアシート

口腔ケアシートは、指に巻き付けて口の中の汚れをふき取る際に使用します。歯や頬、舌や上あごと、さまざまな部分に使えるのが特徴です。うがいができない方や、ベッドサイド上で水が使えないときにも役立ちます。

口腔用ジェル

口腔用ジェルは、口内の保湿に使用します。汚れが乾燥してこびりついている場合にも、ジェルでふやかして除去することができます。ふやかした汚れが口の中に残っていると誤嚥につながる恐れがあるため、必ずきちんと取り除きましょう。

身体状況に応じた口腔ケアのポイント

高齢者の口腔ケアは、身体状況応じたポイントをふまえておくことが大切です。ここからは、以下の2つのケースに応じたケアを解説します。

  • 1.座位が取れない方
  • 2.認知症の方

ケア中の誤嚥を防ぎ、口腔内の汚れをきれいに除去するためにも、1人ひとりの身体状況に応じた方法を身につけておきましょう。

ケース1.座位が取れない方

片麻痺の方は、麻痺のあるほうに身体が傾き、姿勢が安定しづらくなります。そのため、口腔ケア時に安定した状態を維持するためには、クッションやタオルで姿勢を固定する必要があります。車いすの場合はフットレストを外し、足は床につけましょう。

口腔内の汚れは麻痺側に残りやすいため、注意しながらケアを行います。本人が歯ブラシを持ちにくい場合には、柄を太くしたり、手にベルトで固定したりすると良いでしょう。

うがいで水を吐き出す際は、汚れないように「うがい受け」を口元にあてます。麻痺のないほうを下にし、前傾姿勢を取りながら首を傾けて吐き出してもらいましょう。

また、寝たきりの方の場合は、口腔内を清潔にするとともに保湿が重要になります。寝たきりの状態が長く続くと口が開いたままになり、口内が乾燥しやすくなるからです。唇が乾燥しているときにはリップクリームやワセリンで保湿をしたり、口内はジェルで保湿するよう心がけましょう。

歯みがきの刺激で出た唾液でむせたりしないよう、身体はなるべく起こした状態でケアすることも大切なポイントです。

ケース2.認知症の方

認知症の方の場合、身体に触れられることをいやがり口を開けないなどの拒否反応を示すことがあります。特に、口の周りや口内は、触られることを本能的に拒む部分です。

そのため、認知症の方の口腔ケアは、信頼関係を築くための声かけがポイントとなります。手に触れることからはじめ、肩を揉んだり、両頬をマッサージしたりと、少しずつ触られることに慣れてもらいましょう。口の周りのマッサージを受け入れてもらえるようになってから、歯ブラシを使った歯みがきへと移行します。その際も素早くケアが終わるように、基礎的なスキルを身につけておくことが大切です。

毎日の口腔ケアで心と身体を健康に

口腔ケアで口の中を清潔に保つことは、誤嚥性肺炎の予防に効果的です。口のリハビリを行い咀嚼機能が向上すれば、認知症予防や免疫力アップ、歩行の安定にもつながります。ケアの知識と手順を身につけ、毎日の口腔ケアで高齢者の健康をサポートしていきましょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝

2011年 4月 入社 事業推進部 配属 
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長