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お役立ちコラム
2020年11月23日
在宅介護・施設で役立つ「スキンケア」皮膚のトラブルを防ぐ正しい方法
介護時のスキンケアは、床ずれや皮膚トラブルを防ぐために欠かせないケアです。介護施設だけでなく、在宅介護の場面でも高齢者のスキンケアは必要となります。こちらでは、高齢者の皮膚を健康に保つためのスキンケアの方法を解説。介護のシーンに沿った、具体的なポイントも合わせてご紹介します。
目次
高齢者に皮膚トラブルがおきやすい理由とは?
高齢者の皮膚トラブルは、加齢による皮膚の変化によって起こります。正常な皮膚は、角質の「バリア機能」によって刺激から守られています。しかし、年齢を重ねるにつれ皮膚のバリア機能は低下。外因刺激を受けやすくなるとともに、角質の水分量は失われ、皮膚トラブルを引き起こしやすい状態になるのです。
加齢により皮膚のバリア機能が低下してしまう要因のひとつとして挙げられるのが、角層内の脂質の減少です。脂質は角層の保湿成分でもあるため、脂質が減少するほど角層内の水分量は低下し、結果的に皮膚のバリア機能自体を低下させてしまいます。
また、治療や処置などで使用する粘着テープも、バリア機能を低下させる要因のひとつだと言われています。粘着剤を剥がす刺激により、皮膚表面の角質が傷つけられてしまうのです。その他、排泄物の刺激や皮脂汚れ、せっけんの刺激もバリア機能を低下させる外的要因に含まれます。内的要因としては、病気による免疫力低下やストレスが挙げられるでしょう。
バリア機能が低下した肌は乾燥し、皮膚トラブルを引き起こしやすくなります。感染症や床ずれといった新たな疾患の原因にもなるため、高齢者には適切なスキンケアが必要となってくるのです。
高齢者に多い皮膚疾患
高齢者に多くみられる皮膚疾患が
- 1.老人性乾皮症
- 2.IAD(失禁関連皮膚炎)
です。両者とも、前述したバリア機能の低下が要因のひとつとなっています。
疾患1.老人性乾皮症
高齢者に多い肌トラブルの代表が「老人性乾皮症」です。加齢による肌のバリア機能の低下が、大きく関係する疾患となります。
老人性乾皮症の症状
皮膚に浅い亀裂が生じ、白い粉のようにはがれ落ちます。ひざ下や腰背部に認められることが多く、掻痒(そうよう)と呼ばれる「かゆみ」を伴います。
老人性乾皮症の原因
皮膚の水分量の低下が大きな要因です。加齢により、皮膚表面を補う皮脂や角質細胞間脂質、天然保湿因子が減少。結果的に、角質内の水分量が低下し乾燥が生じます。老人性乾皮症の皮膚は、「かゆみ」を感じる感覚神経の末端が表皮の角層近くまで伸びています。そのため、通常の皮膚よりもかゆみを感じやすく、患部を掻くことでさらなる炎症を引き起こす場合もあります。
疾患2.IAD(失禁関連皮膚炎)
排泄物が肌に接触することにより生じる皮膚炎です。湿疹・皮膚炎群(おむつ皮膚炎)、アレルギー性接触皮膚炎、物理化学的皮膚症状、皮膚表在性真菌感染症などを包括するものとして定義されています。
IADの症状
排泄物が接触する部位に、紅斑(こうはん)やびらん、潰瘍を生じます。痛みやかゆみを伴い、会陰部や臀部、肛門周辺のほか、鼠径部や恥骨部などにみられる症状です。
IADの原因
皮膚のバリア機能の低下により、水分の蒸散量が増え、細菌や刺激物が侵入しやすい状態になることが大きな要因です。おむつを着用している場合はおむつ内が高温多湿環境となり、さらにトラブルを引き起こしやすくなります。また、おむつの着脱やふき取り時の摩擦も外因刺激のひとつとして考えられます。
本来、弱酸性である尿は、時間の経過によりアルカリ性へと変化します。尿が皮膚に付着すると、弱酸性であった皮膚のpHがアルカリ性へと傾き、バリア機能を低下させてしまうのです。
また、便にはタンパク質分解酵素をはじめとする消化酵素が含まれているため、長時間付着すると皮膚の表面を損傷させてしまいます。結果的に、刺激物や細菌が侵入しやすくなり、皮膚の炎症を引き起こします。
介護現場でスキンケアが必要な理由
介護現場でスキンケア求められる理由には、以下の2点が挙げられます。
- 1.高齢者のQOL低下を防ぐ
- 2.スタッフの負担増加を防ぐ
加齢によって生じる皮膚トラブルを回避するためにも、スキンケアは高齢者にとって重要な問題です。さらには、高齢者を介護するスタッフにとっても大きく関係するものとなっています。
理由1. 高齢者のQOL低下を防ぐ
皮膚トラブルは、高齢者のQOL(生活の質)を低下させる恐れがあります。かゆみや痛みといった症状は心的ストレスをもたらすだけでなく、高齢者の安眠を妨げる可能性もあるのです。生活リズムが乱れれば抵抗力が弱まり、さらに皮膚のバリア機能は低下。新たに感染症や床ずれを引き起こすといった悪循環も考えられます。
着替えや排泄、移動といった日常動作に支障をきたすようなかゆみ・痛みは、本人の意欲低下にもつながります。QOLの低下により健康状態を悪化させないためにも、介護現場では適切なスキンケアが求められているのです。
理由2.スタッフの負担増加を防ぐ
高齢者のスキンケアは、主に入浴時や排泄時に行われます。皮膚を清潔に保ったうえで保護・保湿するためには、一定の時間が必要です。そのため、皮膚トラブルの症状が重いほど、入浴介助や排泄介助の負担は増加します。
感染症や床ずれを引き起こせば、新たな処置にも対応しなくてはなりません。何よりも、皮膚トラブルが悪化することは高齢者本人の大きな負担となるでしょう。適切にスキンケアを行い健康な肌状態をキープできれば、高齢者とスタッフ両者に心の余裕が生まれます。結果、ケアの負担も軽減され、より質の良い介護を提供できるようになると考えられます。
高齢者のスキンケアのポイント
高齢者のスキンケアのポイントは、
- 1.洗浄
- 2.保質
- 3.保護
の3点です。それぞれを組み合わせることでバリア機能の低下を抑制し、肌状態を健やかに保つことができます。
ポイント1.洗浄
バリア機能の低下した高齢者の肌は、外からの刺激を受けやすくなっています。そのため、刺激物や感染源を除去し、清潔を保つ「洗浄」が必要です。特に、おむつやパッドを装着している場合は、排泄物が皮膚に長時間付着する可能性があります。おむつの着脱時や入浴時には、特にていねいに洗浄するよう心がけましょう。
ポイント2.保湿
皮膚の水分量を補うために行うケアが「保湿」です。保湿剤を塗布することで、角質層の水分バランスが整えられます。かゆみによる掻きむしりを予防するためにも、保湿剤は定期的に使用することが望ましいとされています。
ポイント3.保護
洗浄・保湿した皮膚をさらに外因刺激から守るために必要となるのが「保護」です。おむつかぶれのトラブルを予防する際は、撥水加工のある保護クリームを用いると良いでしょう。おむつ使用時は汚れる部分だけでなく、なるべく広範囲にわたって塗ることがポイントです。
介護シーン別スキンケアの方法
正しいスキンケアの方法は、生活シーンによっても異なります。
- 1.入浴
- 2.清拭
- 3.おむつ交換時
- 4.関節収縮がある場合
皮膚トラブルの予防や現在の症状改善のためにも、それぞれのシーンに合わせたスキンケア方法を確認しておきましょう。
シーン1.入浴
入浴は、皮膚の清潔を保つために効果的な方法です。しかし、脱脂力の高い石鹸を使ったり、ナイロンタオルでこすったりすると、皮膚を傷つける恐れがあるため注意しなくてはいけません。
入浴時のポイントは、弱酸性や低刺激性のせっけんを用いた泡でやさしく洗うこと。温度の高いお湯は皮膚の乾燥を促進するため、ぬるま湯でしっかりと洗い流しましょう。保湿成分配合の入浴剤をも、スキンケアには効果的。保湿剤の浸透効果を高めるため、入浴後は10分以内に保湿ジェルやクリームを塗るように心がけましょう。
シーン2.清拭
入浴ができない場合は、清拭で肌の清潔を保ちます。お湯で絞ったタオルを用い、刺激の少ない清拭剤でやさしく体を拭きましょう。清拭後は、乾いたタオルで軽く押さえ、水分を肌に残さないことがポイント。保湿ジェルやクリームといった保湿剤は、肌が乾燥しがちな部分を中心に塗布しましょう。
シーン3.おむつ交換時
排泄物が外因刺激になり得るため、おむつ交換時はなるべく早いタイミングでスキンケアを行う必要があります。特に、下痢はかぶれや感染症の原因にもなるため、抗菌・抗真菌作用のある洗浄剤がおすすめです。
通常時であれば、せっけん洗浄は1日1回にとどめ、その他はぬるま湯を使用。洗浄後は、乾燥予防のために保湿剤を塗布します。下痢の場合は皮膚トラブルを予防するため、撥水加工のある保護クリームも併用すると良いでしょう。
シーン4.関節収縮がある場合
関節収縮により握ったままの状態になった手のひらは、皮膚内に汗や汚れが付着し、びらんや潰瘍といった皮膚トラブルを引き起こす恐れがあります。無理に手のひらを開こうとすると痛みが伴うため、ケアにはいくつかのポイントが必要です。
まず、たっぷりの泡を手に乗せ、そのまま数分置いて洗浄成分を指の間にしみこませます。浸軟(しんなん)と呼ばれる皮膚がふやけた状態でなければ、刺激の少ないゴム製のスティックブラシを用い、指の間を洗浄しても良いでしょう。
ただし、過度に浸軟している場合は、皮膚は非常に傷つきやすいため摩擦を加えてはいけません。指でマッサージをしながら、シャワーの水圧でやさしく泡を洗い流しましょう。洗浄後は、コットンガーゼなどを用いて水分を拭きとり、皮膚と皮膚が接していない部分に保湿剤を塗布して皮膚の健康を守ります。
まとめ
介護現場で求められるスキンケアは、高齢者本人はもちろん、ケアにあたるスタッフにとっても良い効果をもたらします。皮膚トラブルを回避することで高齢者のQOLの低下を防ぎ、さらには介護にあたるスタッフの負担も軽減できるからです。
高齢者のスキンケアは、清潔と保湿、保護が大きなポイント。それぞれのシーンに合わせた正しいスキンケア方法を身につけ、健やかな肌状態を保ちましょう。

あなぶきメディカルケア株式会社
取締役 小夫 直孝
2011年 4月 入社 事業推進部 配属
2012年 4月 第2エリアマネージャー(中国・九州)
2012年11月 事業推進部 次長
2015年 4月 リビング事業部 部長 兼 事業推進部 部長
2017年 10月 執行役員 兼 事業推進部 部長 兼 リビング事業部 部長
2018年 10月 取締役 兼 事業本 部長 兼 事業推進部 部長